壱ノ巻
毒の粉
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あたしはすかさずさっと隣の部屋に入った。今日は昨日のような襠ではなくいつもどおりの小袖なので、衣擦れの音もしないし、身も軽い。
襖一枚を隔てた部屋で、あたしは聞き耳を立てる。
『早速だが柴田殿。発殿は了解してくださったのかな?』
『それが…』
『む。どうかなさったのか?』
『それがなぁ、若殿は、ほれ、あの容貌であろう?少し、情が傾いてきているらしい』
『!それでは…』
『いや、了解はしてくれたよ。まだ完全に情が移っている訳じゃないからな。でも、急いだほうがいい』
『では、例のものは』
『まだ、届いてはおらんが…。永田殿、悪い知らせじゃ。お六がつい昨日、急死した』
『なに!?』
『お六がいなければ、これは成るまい。他の侍女ではだめだ。誰か、家とは関係ない何も知らない新しい侍女を探してこなければ…。お六も、よりによってこんなときに死なずともよいものを…』
永田がはははと笑った。
『新しい侍女を探してくるまでもないでしょう。行き倒れくらい、このご時勢、いくらでもおりましょうに』
あたしは段々といらいらしてきた。
確かに、密談しているだけあって、二人の会話は何処となく曖昧だった。高彬がどう関係しているのかもわからないし。
……。
さっき、こいつら新しい侍女が何とか、って言ってたわよね。
あたしはにやりと笑った。
「あ〜、兄上!いたいた!」
「瑠螺蔚?」
庭に出て上衣を脱ぎ剣の型を練習していた兄上にあたしは駆け寄った。
兄上を見上げて微笑む。
「兄上、あたしちょっと旅に出てくるから」
「旅?」
微笑んでいた兄上の顔が驚きで固まる。
「父上には兄上からごまかしといて。好きな男が出来て、そこに通ってるとかどうとか、適当に言っといて」
「瑠螺蔚っ!?」
兄上は、あたしに視線をひたと当てて、でもどこか遠くを見るような目をした。
「兄上」
あたしは冷めた声で言う。
「やめて。あたしの心を視ないで」
兄上が、そういう目をするときは、霊力を現す時。
あたしは心を覆う。
心を強く持たなければ。でなければ視られてしまう。
兄上は諦めたように苦笑いしながら言った。
「せめて、
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