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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
恋篝 U
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ないような、険しい顔付きだった。
……その相手は、誰だ。キンジには粗方の予想は付いている。


「──《魔剣》、私が約束を破るとでも思っているのですか」


刹那、心臓が早鐘を打った。否、早鐘などといった生温い表現では、些か足らない。これは警鐘だ。
白雪は、《魔剣》と接触している。あまつさえ、何らかの交渉も結んでいることは明らかだ。

キンジは、如月彩斗に連絡をすべきか逡巡する。
《魔剣》が白雪に連絡をとれたのなら、恐らく、自分たちの連絡網も割れているだろう。それは危険だ。
下手をすれば、『約束』の対価に抵触する可能性がある。そうなれば、白雪やその周囲の身が危ういことは、容易に見える。

どうすればいいんだ──!

ギリ、と歯が軋み、悲鳴を上げる。掌に喰い込んだ爪が皮膚を引き裂き、深紅色の薔薇が花弁を散らした。
ポタタッ、と朽葉が音を立てて鳴く。
痛覚が自我に干渉する。そこで初めて、キンジは焦燥に身を任せて自傷していたのだと気が付いた。

この件は、下手に口外できない。かと言って白雪を問い詰めても、口を割ることはないだろう。
つまりは、《魔剣》に干渉されていると勘付かれずに、行動を起こすことが必要だ──とキンジは思い至った。

白雪は既に通話を終え、神妙な面持ちでベンチに腰かけている。電話はいつの間にか、仕舞われたらしい。
タイミングを見計らってからキンジは、さも今戻ってきたかのような演技をしつつ、彼女の名を呼んだ。


「っ、……なんだ。キンちゃんかぁ。おかえりなさい」
「なんでその程度で驚くんだよ。怖いことでもあったのか?」
「う、ううん。何にも無いよ。大丈夫」


白雪は両手を大仰に振って否定する。普段のキンジなら何も思わずして流すだろうが、今だけは、その言葉が苛立たしかった。


「……んで、花火。これしか売ってなかったんだけど」


申し訳なさそうにキンジが呟き、袋の中身を取り出す。たった数本の手持ち花火だ。


「花火セットは売り切れてた。これしか残ってなくてな。悪い」
「キンちゃんが謝ることないよ。買ってきてくれてありがとう」
「もう少し早めに来てたら、たぶん売ってたんだろうけどな。ちょっとばかし残念だ。……さて、やるぞ」


キンジはそう言って白雪の隣に腰掛ける。それぞれが1本ずつ花火を持ったのを確認してから、ライターで着火した。

小さな炎が灯る。それは瞬く間に朱の球になり、そうして、我先にと散りゆき、霧散した。
色とりどりの輝石が、虚空を灯している。陽炎が揺らぎ、その姿を虚偽へと変貌させる。

それでもここには──2人だけが、真に誠の存在だった。
白雪は軌道の読めない散る華を見て、小さく悲鳴を上げる。にも関わらず
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