第二章
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無念を乗り越えて
根室寿は新年になって早々家を出た、妹の千佳は兄より早くそうしていた。千佳は神戸の長田区にある自宅からだった。
一人電車で広島に赴きそこで代々住んで仕事も持っている親戚と合流して厳島神社に赴いた。そうしてだった。
新年を迎えようとしている海の中に聳え立つ鳥居を見て親戚の中年の女性に言った。
「今年もお願いしないといけないですね」
「カープの優勝をよね」
「はい、カープのことをお願いするのなら」
その鳥居を見つつ話した。
「やっぱりです」
「ここよね」
「厳島神社です」
ここが一番だというのだ。
「広島で一番の神社ですよね」
「そうよ、何と言ってもね」
親戚もその通りだと答える。
「広島で神社と言ったらね」
「まずここですね」
「平家も参ったし毛利元就さんもだし」
「そうした場所だから」
「カープのことをお願いするなら」
それならというのだ。
「もうね」
「ここが一番ですね」
「他にも神社はあるけれど」
広島県にというのだ。
「もう何と言ってもね」
「一番はここで」
「カープのこともよ」
「ここが一番ですね」
「ええ、だからね」
「今年もですね」
「千佳ちゃんがカープを心から愛しているなら」
それならばというのだ。
「本当にね」
「ここでお願いすることですね」
「他にはないわ」
それこそというのだ。
「だからいいわね」
「わかりました、じゃあ今年もです」
千佳は親戚に意を決した顔で頷いて答えた。
「お願いさせてもらいます」
「それでこそ鯉女よ」
親戚は千佳のその心を受けて述べた。
「ではね」
「はい、あの三連覇でも日本一になれなかったですが」
「それでもよね」
「あれで終わりじゃないです」
「そうよ、カープは昭和五十年まで優勝しなかったのよ」
その間存続の危機さえ迎え市民達の樽募金で何とか存続したが長い間苦闘の時期が続いたのである。
「そして三十年以上ね」
「日本一になっていないですね」
「けれどそれでも私達は応援してきたのよ」
「何があろうとも」
「最下位になったこともあったけれど」
優勝から遠ざかっている間にだ。
「それでもね」
「応援していくのがカープファンですね」
「そう、そしてね」
それでというのだ。
「今年こそとね」
「お願いすることですね」
「その気持ちは何時か必ず届くから」
「厳島の神様にも」
「そして必ず日本一になるから」
再びというのだ、尚その日本一とは昭和五十九年一九八四年のことである。阪急ブレーブスを下してのことだ。
「その時まで、そしてね」
「なってからもですね」
「あの連覇の再現よ」
昭和五十四年と五十五年だ、一九
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