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冥王来訪
第一部 1977年
慕情 その2
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に答えると、彼の顔を、目を細めて見た
その様な態度に、不安感を覚えながら、彼は再び、訪ねた
「《パレオロゴス作戦》、初めて聞くな。何だよ、それ」
静かな声で、曹長が割り込んできた
まるで、子供を諭すような素振りで話す
「ミンスクハイヴ攻略作戦の正式名称です……」
同輩は、話している途中に割り込んできた
彼は、自己顕示欲を満足させるためであろうか、と内心不安に思った
「先頃NATO(北大西洋条約機構)とWTO(ワルシャワ条約機構)の双方の話し合いで決まった名称で、何でもギリシャ語で、《古い理論》を指す言葉だそうだ」
少尉の士官学校時代と変わらぬ態度に、彼は呆れて、声も出なかった
目の前の先任曹長をないがしろにするとは……
いくら自分たちは将校とは言えども、年季の違う古参兵を蔑ろにするのは、《軍》という暴力装置の中にあっては禁忌ではないか
彼の背中に、汗が流れていくのがわかる
下着は湿り、寒気すら覚えるほどであった
「どうした、反論の一つもないのか。ユルゲン」
厳しい顔をした曹長が、二人の間に入ってきた
低い声で二人に話しかける
「宜しいでしょうか。ご学友同士のお戯れも、程々に為さるべきかと」
「同志曹長、貴官の意見を参照しよう」
彼は、足り障りのない返答をすると、項垂れる友人と共に部屋を出た
その際に、彼等は年上の曹長へ、謝罪して、その場を後にした
「少し、こいつと話してきますので、席を開けます。
ですがよろしくお願いします」


「やっと結婚する気になったんだろ、ユルゲン」
二人の青年将校は、基地の敷地内を歩きながら、話し合った
ヤウク少尉が前を向いて歩いているのと対照的に、中尉は、下を向きながら歩いている
「まあ、告白はした。返事は……」
隣に居る少尉が、彼に返した
「君は、そういう所が、本当に意気地なしで優柔不断だよな」
彼の顔が顔を上げる
青白く美しい顔は、その言葉で赤くなり、昂揚しているのが判るほどであった
「で、何時、結婚……」
少尉の問いへ、たどたどしく返した
「来年の……」
少尉は、目を見開いく
大げさに、手を振り上げ、絶叫した
「来年だと。散々待たせておいて、君は。最低じゃないか」
彼は、少尉の肩を掴み、正面を見据える
燥ぐ彼を押さえつけ、告げた
「まだ、《パレオロゴス作戦》の下準備すら始まっていない段階で、そんなこと出来るかよ」
少尉は、顔を背けながら答える
「本当に、君は人の心が分からない人だね。大体、そんなんじゃ彼女が20歳超えてしまうじゃないか。散々引き延ばして仮に……」
彼は、少尉の体から手を離した
「何だよ。仮にって……」
彼の脳裏に《死》の文字が浮かぶ
戦死以外に、この国には、《死》が近すぎるのだ
「今結婚すれば、来年には子供が……」
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