第一部 1977年
慕情
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よ。
強い酒か、コーヒーでも飲めば、疲れなんて吹き飛ぶさ』
そういうと、彼は、椅子から立ち上がろうとする
だが、姿勢を崩し、前へ倒れ掛かる
とっさに倒れ掛かる彼を、曹長は支えた
ゆっくりと、椅子に座らせてから、額へ右手を添える
その体温の高さから、彼は、高熱が出始めたことを悟った
『いや、帰って下さい。
兵達に示しがつきません』
そんなやり取りをしている内に、軍医と衛生兵が来て体温と脈を図っている
軍医は、衛生兵から体温計を渡されると一瞥し、彼に告げた
『8度6分……、帰って寝なさい』
青白い顔の彼を、曹長がゆっくり、後ろから持ち上げる
室外に居た屈強な衛生兵二人を呼び入れ、彼の体を担架に載せた
担架に乗せられながら、ベットのある医務室まで連れて行かれた
横たわる彼は、首を曲げ、連れ出される部屋を覘く
奥では曹長が、机にある電話をかけているのが判ったが、段々頭が働かなくなっていくのが解る
2時間後、幼いころからベルンハルト兄弟を世話していたというボルツ老人が車で迎えに来た
聞けば、父兄の代わりだという、老人に曹長は一部始終を話し、中尉を帰宅させた
彼は気が付くと、ベットに寄り掛かって寝る美女の存在に気が付いた
月明りで、美しく艶やかな金髪が光る
妹が、寝ずの番をしてくれたのだと……
壁時計を見ると、深夜3時
帰国してから、様々な理由で妹と恋人には会っていなかった
そういえば3週間、土日返上でベルリン市内を駆け回っていたことを思い起こしていた
再び目を瞑った
翌朝、目覚めると長い黒髪の美女が室内の椅子に座って寝ていた
彼が戦場で片時も忘れることの出来なかった、ベアトリクス・ブレーメ、その人であった
宝玉のような赤い瞳、豊かな胸と尻、美しく括れた腰、ふと過ぎず細すぎない太もも
着ているセーターや長いスカートの上からでもはっきり判る、その姿を唯々見ていた
辺りを見回すと、妹は居ない
彼は静かに彼女を見ていた
『兄さん、お目覚めですか』
ドアが開くと、妹が声を掛けてきた
士官学校の制服ではなく、ベージュ色のカーディガンに、茶色のスカートを履いている彼女の姿から、今日が休みであることを知った
『何曜日だ』
彼は、ゆっくりと上半身を起こした
『土曜日ですよ』
こうしては居れない。はやく館に行かねば……
『大丈夫よ。私から連絡してあるから』
ベアトリクスが目を覚ましたようだ
『何時からそこに居るんだ』
『昨日からよ』
彼は恥じた
『気が付かなかった』
彼女は長い黒髪を右手で掻き分ける
『そう』
『なあ、聞いてくれるか』
横から体温計を持った妹が来て、脇の下に差し込む
『なによ』
真剣な表情で語った
『俺達、一緒にならないか。何時如何なっても可笑しくないだろ
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