第二章
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そんな中で太助は大久保に彼の屋敷の庭でいつも通り魚を売る中で言った。
「ご隠居そろそろ初陣があった日ですね」
「もう五十年は前から」
「あれっ、四十九年じゃなかったですか」
「確か五十年だ、これでも頭ははっきりしておる」
「それで足腰もしゃんとして歯もですね」
「一本も抜けておらん、目もちゃんと見えるぞ」
「いやあ、何時極楽に行くかわかりませんが」
太助は笑って言った。
「この分なら当分ないですね」
「当たり前じゃ、人間六十を過ぎても日々鍛錬に励み養生しておるとな」
そうすればというのだ。
「この通りじゃ」
「還暦を過ぎてもですか」
「戦の場にも立てるぞ」
「そうなんですね、じゃあ初陣の日はです」
五十年目のその日はというのだ。
「ここはおいらがお祝いのものを用意しましょう」
「そんなものいらんぞ」
「いやいや、ご隠居とは魚屋はじめてからの付き合いですから」
太助は大久保に笑って話した。
「ですから」
「それでか」
「はい、ここはおいらがです」
その日はというのだ。
「ご隠居にとびきりの魚を持って来ますよ」
「いらぬと言っても持って来るな」
「おいらのことがわかってますね」
「この意地っ張りが」
大久保は太助に笑ってこう告げた。
「いつも思うが」
「それはご隠居もでしょ」
「わしもか」
「というかおいらよりも」
大久保に笑って言うのだった。
「ご隠居は意地っ張りですよ」
「そう言うか」
「頑固とか偏屈って言われますね」
「それはな」
実際にと言うのだった。
「城でもいつも言われておる」
「そうですよね」
「それで言うのか」
「ええ、おいらよりも」
「そうか、しかしな」
「それでもですか」
「それがわしじゃ」
大久保は太助に胸を張って答えた。
「ずっとこうだからのう」
「それで、ですか」
「わしはこのままいく、だからな」
「それで、ですか」
「お主にそう言われてもな」
それでもというのだ。
「よい」
「そうですか」
「そうじゃ、だからな」
それでというのだ。
「わしはそれでよい」
「そうですか」
「それでお主にまた言うが」
「意地っ張りですか」
「うむ、それでな」
「それで、ですか」
「初陣だった日はですか」
「お主の好きにせよ」
太助にこうも言った。
「そうな」
「じゃあそうしますね」
太助は大久保に笑顔で応えた、そのうえで。
初陣の日の朝だった、彼は漁師のところに行って魚を見た、それはいつものことであったがそれでもだった。
この日は魚達を念入りに見ていた、漁師はその太助に尋ねた。
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