第三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「襲わねばな」
「左様ですか」
「ならよい」
「よいですか」
「実はこの社の神主からお主のことを聞いてな」
そうしてというのだ。
「何とかして欲しいと言われたが」
「それでもですか」
「驚かすだけならよい、このことは神主に話し」
「そうしてですか」
「民達にも話す、ここにお主がおって人を脅かせるだけならな」
「いてもよいですか」
「人を襲えば罪であるが驚かせるだけでは罪にならぬ」
正之は今度は法の話をした。
「だからな」
「よいですか」
「うむ、この地を預かる者として言う」
実際にこう言った、そしてだった。
正之は妖怪を夜だからと自分の家に帰らせると妖怪は素直に従って社を後にした。
正之もそれを見届け城に帰った、ここで供の者が彼に問うた。
「あの、殿」
「この仕置きで、であるな」
「よいのですか」
「人でも犬でも猫でも驚かせただけで罪に問われるか」
「いえ」
供の者はすぐに答えた。
「流石にそれは」
「そうであろう、ならな」
「妖怪も同じですか」
「そうじゃ、ああして脅かせる位ならな」
それならというのだ。
「よい、ただどういった妖怪は神主や民は知っておくべきじゃ」
「それであらかじめ知っておいてですか」
「驚かされるという心構えはさせておくのじゃ」
「そうですか」
「うむ、さもないとな」
それこそというのだった。
「驚き過ぎて心の臓が止まる者が出かねぬ」
「ああした顔が急に出て来れば」
「そうなるからな」
それ故にというのだ。
「そうさせたのじゃ」
「そうですか」
「うむ、ではな」
「これで、ですか」
「後は仕置きとして行いな」
「終わらせますか」
「そうする、また言うが脅かせるだけでは罪にならぬ」
例えそれが妖怪でもというのだ。
「人でも畜生でも妖怪でもな」
「法でそうであるなら」
「そうするもの、ではよいな」
「はい、それでは」
「今日は城に帰り明日沙汰にしよう」
悠然と言ってだった。
正之は城に帰った、そしてこの日は寝て朝になって風呂と朝食それに武術の稽古が終わって政に入るとだった。
すぐに妖怪のことを政とした、神主と民達に社にそうした妖怪が出て人を驚かせることを教えた。それで一件落着とした。
会津の地に伝わる話である、一説には驚かされた若侍がその衝撃ですぐに世を去ったという。だが別の説ではこうなっている。こちらは会津藩の祖であり藩主としても幕府の大老としても名を残している松平正之の逸話の一つとなっている。どちらが真実かはわからない。だがこちらの方が面白いと思い紹介させてもらった。一人でも多くの方が読んで頂ければ幸いである。
正之と朱の盆 完
20
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ