第一章
中野の古本屋
[8]前話
島下十五はじっくり自分がどうして死んだのかを考えてみることにした。思い当たることはちゃんとあって、それは、天ぷらを食べたことではなくて、何か本を読んで、それが直接の原因だった気がするのである。
半年前に、島下十五は、東京の中野の古本屋をぶらついていたのだ。ややこしいのは、千葉にも中野町というところがあって、ここいらだと、「あ、中野ね」というと、そこなのであるが、彼が行ったのは東京の中野であり、中野サンシャイン、中野ブロードウェイなど、たまに訪れるには面白いところになっているのである。
特に好きなのは古本屋であって、島下の感性と非常にマッチしていた。いや、マッチどころか、そもそも島下の感性を形作ったのが中野の古本屋なのだ。もともと、中野育ちなのである。数々の面白い本があったが、その中でも白眉だったのが、「読んだら絶対に死ぬ本」というタイトルの本だった。
「うわっ。そんなもん、買ったんですか」
三吉は十五が読書好きなのは何となく知っていた。たまに、紐で縛った大量の本の束が捨ててあったからである。難しそうな本しかなかった。因みに、三吉は漫画しか読まない。それも「鬼滅の刃」などのジャンプ系である。
「面白そうじゃない。読んだら絶対に死ぬんだよ。そんなわけがあるものか。と買って読んでみたんだよ」
「悪趣味だなあ」
「何ていうか、中野というところはそういうところでもあるんだよ」
「秋葉原に次ぐ、第二のオタクの聖地ですからね」
「うん」
十五は、本を買ったらまずは、解説か、後書きから読む癖があった。それを読んで、この本がどういう本なのかを知ってから読むのである。おかげで、最後のオチがバレてしまったり、読む気をなくす本がたくさん出て来てしまうのであるが、十五にしても、(今は死んでしまったが)、人生という時間は有限であり、つまらないと思うものに一々付き合っている暇はなかったのだ。
しかし、その本だけは何だか、先を読んではいけない気がした。初めの二、三ページで十五を惹きつける強力な何かがあったのだ。本を読むというのは、そういう魅力を感じるから読むのであるが、この本にはそれが溢れていた。だから、ろくに立ち読みもせずに買ってしまったのである。560円であった。なかなかの値段である。
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