第一章
[2]次話
お医者さんがいなくなって
亀田村という村がある、この村は過疎地であり色々なものがなく専門職の人もいない。それで医師もだった。
いない、だがそのことを知ってだった。
田村力也、医師である彼は勤務している大学病院の院長に直訴して。一九〇ある逞しい身体で色黒の長方形の岩の様な顔で黒髪をリーゼントにしている。白衣を着ていてもその筋の人に見える程である。
「私を亀田村に行かせて下さい」
「あの村に今医師がいないからだね」
「それでは困る人が多いですね」
「うん、けれどあの村は」
院長である鶴岡百才は難しい顔で答えた、細面で白髪は清潔な感じだ、目は鋭く一七三位の背で背筋が伸びている。
「これまで」
「赴任した医師がですね」
「皆すぐに去っているから」
それでというのだ。
「君の意気込みは評価するが」
「それでもですか」
「行かせたくない」
絶対にという言葉だった。
「どうしてもな」
「ですが現実問題としてです」
田村は鶴岡に強く言った。
「村に医師がいないと」
「村の人達が困るね」
「ですから」
その為にというのだ。
「あの村に行ってです」
「村の人達を助けたいか」
「はい、どうしても」
「そこまで言うのならな」
それならとだ、鶴岡は頷いた。そうしてだった。
田村に亀田村への赴任を許した、田村は熱い気持ちに満ちて村に入った。そして診療所に住んでだった。
村人達を診た、彼は積極的に動き村人達が来た時だけでなく往診も行った。だがそれでもだった。
村人達は感謝の言葉すら述べずだった。
「私達は他所者か」
「そんな感じね」
妻の美里が応えた、彼と同じ位の年齢で黒髪を短くしている低めの鼻と穏やかな目の女性である。背は一五〇程で子供達は独立している年齢だがまだ若さを保っている外見だ。
「どうも」
「診察してもな」
「他人行儀どころか」
「お礼も言わないな」
「それどころかお金もよ」
診察代もというのだ。
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