第一章
丁度悪い熱さ
[8]前話 [2]次話
「丁度、悪い熱さねえ」
三吉も暇だったというのもあってちょっと考えることにしてみた。
「「本当に嫌だ、これ」ってなる。たとえば、十個くらい湯呑みが並んでいて、その中でも、ダントツにこれダメ、というほどの温度なんでしょうね」
「でも、それの温度って熱いのか、冷たいのかってわからないよね」
「まあ、そうだけど。熱い方が困るし、冷たかったら丁度悪い熱さじゃないんじゃないですか?」
「まあ、そうだ。でも、普通、熱きゃ熱いほど、飲まないだろ」
「しかし、これは丁度、悪いとなっている。はっ。そうか」
「何だい」
「熱ければ警戒して飲まない。ってことを考えよう」
「ほう。してみると、警戒しないほどの熱さで、飲んでみて「うわっ、熱い」ってなるってこと?」
三吉はスッキリした顔をして、このように締めくくった。
「そうそう。いかにも、「フーフー」と息を吹いて冷ます必要がなさそうに見えて、実は、冷まさないと熱くて飲めない湯飲みってことですよ」
「なるほどね」
島下の顔も満足げであった。
「ってこんなこと、どうでも良いんだよ。ところで、ええっと、王路さんに聞きたいんだけどさ」
「はい」
「俺、死んじゃったの」
どことなくサングラスの奥の島下の瞳が不安そうだった。
「もう、半年くらい前から死んでます」
「あ、そう」
「ええ」
「もう、火葬とか済ましたんだね」
「ええ」
急に島下は姿勢を正す。
「じゃあ、まずはご愁傷様です」
「自分のことでしょ。何言ってんの」
「あ、そうだった。でもね。困ったことにねえ。俺個人はね。どうも、こいつは死んでないんじゃないかなあって、どうしても思っちゃうんだよ」
「あ、そうなんですか」
「うん。ピンピンしてるように感じるんだよね」
「でも、それあなたの感想ですよね」
「感想というか、感じね」
「あそうか。でもね。よく見ると、透けてますよ。ほら、向こうが見えるもん」
「あ、本当だ。しかも、鏡に映ってないわ。これ、死んだってやつだね」
「そうなんですよ」
「どうして、死んだんだろう」
「それは分かりませんが」
「確か、半年くらい前、天ぷらを食っていたのは覚えているけどね。あれ以来、食べ物が食べられないのはそういうことだったのか」
「でも、お茶は飲みましたね」
「本当だ。霊ってのは、不思議だねえ」
「よっぽど、こっちのセリフですから」
「そっか」
何故か島下はバツの悪そうな顔をした。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ