第二章
[8]前話
「一体」
「うちの子ですね」
女将は自分をフェルト=ギュヴェンと名乗ってから話した。
「フェロっていいます」
「フエロですか」
「元野良で雄で。叔父のオメルが保護して」
そうしてとだ、シュミットに羊料理とビールを出しつつ話した。
「十二年一緒でした」
「十二年ですか」
「ええ、子犬の頃からで」
「それからずっとですか」
「一緒にいまして」
それでというのだ。
「ずっと一緒で。ですが叔父が九十二歳で亡くなって」
「それで、ですか」
「犬好きの叔父でいつも犬が第一で保護犬の活動もしていて自分のお金もかなり使っていまして」
「本当に好きだったんですね」
「特にフェロを。それでなんです」
「あの子はですね」
「叔父がなくなってからずっとあそこにいて食べることも寝ることもです」
そうしたこともというのだ。
「あちらで」
「そうですか」
「ですから私達も小屋を置いてあそこでご飯をあげています」
「家族として」
「そうです、お葬式の時泣いていたそうですし」
家族の死を悲しんでというのだ。
「その気持ちに応えて」
「そうしてですか」
「これからもあの子の気持ちに応えていきます」
こうシュミットに話した、シュミットはその話を聞いてからだった。
店を出てから墓場まで行った、そのうえでフェロを見て彼に言った。
「これからも家族と一緒にな」
「ワン」
フェロは大人しく墓標の前にいた、そしてシュミットに顔を向けて一声鳴いた。彼はそのフェロを見て微笑んだ。そのうえで旅の思い出の一つにした。イタリアでのこととトルコでのことは彼にとって一生のそれになった。
それでだ、彼はドイツで知り合いに話した。
「犬は素晴らしいよ」
「家族が亡くなっても寄り添ってくれるから」
「うん、だからね」
それでというのだ。
「僕も犬を飼うことにしたよ」
「そして絆を育んでいくね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「僕より先に亡くなったら」
「彼等と同じだね」
「見送って忘れないよ」
そうするというのだ。
「仕事があるから毎日お墓にお参り出来ないと思うけれど」
「それでもだね」
「うん、絶対に忘れないよ」
こう言ってある犬を家族に迎えた、そうしてその犬と絆を育んでいった。彼が知る犬達の家族達がそうした様に。
毎日お墓に 完
2021・12・27
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