プレリュードその三
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忽ちのうちに学園内でも有名人になった。何をしても目立ったからだ。
「聞いた?数学のテスト満点ですって」
「英語も普通に喋れるらしいわね」
「それに脚も速いしね」
「凄い子みたいね」
女の子達がだ。こう彼の噂話をしていた。
そしてだ。彼女達は憧れを以て話していくのだった。
「顔も奇麗だしスタイルもいいし」
「何かよくない?」
「いいわよね。私好きになったわよ」
「私もよ」
こうだ。彼は女の子達の人気の的になった。しかしだ。
こうした人間は妬まれもする。校内のあまり柄のよくない先輩連中がだ。
彼を囲みだ。こうすごんできたのである。
「おい、御前何だよ」
「あまり調子に乗るなよ」
「いきがってたらしきたり教えてやるからな」
「覚悟しろよ」
「しきたりとは」
その言葉を聞いてだ。十字はだ。
黒い目に妙な、少なくとも人間味は感じられない光を帯びさせてだ。自分を囲む彼等に言ったのだった。
「それは神の御教えでしょうか」
「神!?馬鹿言えここは日本だぞ」
「お寺とか神社だろうがよ」
「俺達が言うのは校内のしきたりだよ」
「それを守れって言ってんだよ」
「校則は守っています」
これが十字の返答だった。
「ですから何も問題はないかと思います」
「だからそういうのじゃなくてな」
「あまり調子に乗るなって言ってんだよ」
「いいか?女をとっかえひっかえとかしたら許さないからな」
「それわかってるのかよ」
「御安心下さい」
微笑んだがその笑みは何処か冷たい。その笑みでだった。
彼は先輩達にだ。こう言ったのである。
「僕は神の使徒です」
「その神様かよ」
「キリストのってのかよ」
「そうです。神の僕ですから」
だからだというのだ。彼自身はだとだ。
「女性に対して清潔です」
「その証拠はあるのかよ」
先輩の一人が顔を十字のその整った顔の前に突き出した。
そうして至近で見合ったままでだ。彼に問うたのである。
「カトリックの神父なんて昔はやりたい放題だったじゃねえかよ」
「それは何時の頃のことでしょうか」
「昔だよ。教科書に載ってたぞ」
柄が悪いがそれでもだ。勉強はしっかりしているらしい。
「金に女に権力にって。そんな言葉信用できるのかよ」
「そうした輩は今もいます」
「だろ?じゃあ何で御前の言葉を信用できるんだよ」
「彼等もまた裁かれる立場にあります」
ここでだ。十字の言葉の色が変わった。
何かだ。冷たい刃の様なものが宿りだ。
その声でだ。先輩達に述べたのである。
「そう、神の御教えに背き道を踏み外した者は」
「!?何だこいつ」
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