第二章
[8]前話
結局宇垣は十二時まで飲んだ、そして自宅に帰った。独身の小林は一人自分の家に帰ったが。
宇垣は家に帰ってだ、笑顔で言った。
「ただいまぁ〜〜〜」
「・・・・・・・・・」
いつも通り能天気に帰ったと挨拶したが。
マンションの玄関に妻の綾が立っていた、グレーのロングスカートと白のセーターにエプロンという服装だ、その彼女が立っていて。
帰ってきた夫にだ、こう聞いてきた。
「今何時だと思ってるの?」
「ああ、十二時半だな」
夫は腕時計で時間を確認して答えた。
「そうだな」
「もっと早く帰りなさい!残業以外で午前様は駄目よ!」
「えっ、何言ってるの?」
「怒ってるのよ!」
いつもとは全く違ってだった。
綾は激怒して怒ってきた、そうして。
宇垣はその後綾に噛み付かんばかりに怒られた、そのうえで。
休日明けに彼は職場で小林に話した。
「いや、もう角出ていてな」
「奥さん怒ってか」
「ああ、もう顔なんてな」
そちらの話もした。
「いつもの笑顔がなくてな」
「鬼の顔だったか」
「般若だったよ」
まさにその顔だったというのだ。
「凄かったよ、滅茶苦茶怒られたよ」
「幾ら優しい人でもか」
「午前様は駄目だってな」
宇垣も古い言葉を出した。
「言われたよ」
「言わんこっちゃないな」
「全くだ、すげえ怖かったからな」
角が生えて般若の様だったからだというのだ。
「もうな、飲んでもな」
「午前様は避けるか」
「そうするな」
「そうしろよ、どんな優しい人でも怒る時は怒るからな」
「そうだな、じゃあな」
「ああ、午前様はしないな」
宇垣は小林に言うと共に自分にも言い聞かせた、そして実際に彼は二度と午前様はしなかった。怒った妻があまりにも怖かったので。
般若の面 完
2021・12・19
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