第二十一話 与えられた試練その八
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「寒かったりもしたけれどね」
「それでもでしたね」
「千春ちゃんのところには毎日行ってるからね」
「だからこれからもですね」
「行くよ」
例えだ。何があろうともだというのだ。
「僕はね」
「今は冬ですから」
三学期の真っ只中だ。日本で最も寒い季節だ。
しかも神戸の冬は厳しい。山から吹き降ろす風が街を極限まで冷やしてしまうのだ。前に海があり後ろが山の神戸の避けられない気候である。
しかしその寒い中でもだ。希望は言うのだった。
「構わないからね」
「あの人の為には」
「うん、行くからね」
こう言うのだった。ここでも強い決意と共に。
「絶対にね」
「僕は。こう思います」
希望のそうした言葉を聞いてだ。真人は。
遠くに素晴しいものを見ている目でだ。澄んだ声で希望に話した。その話とは。
「遠井君ですから」
「僕だから?」
「はい、遠井君ですから」
そのだ。彼だからだというのだ。
「あの人と巡り会えてそうして」
「そうして?」
「幸せになれているのだと思います」
「それを言ったら何か僕が立派な人みたいだけれど」
「少なくともあの人には相応しいと思いますよ」
「だといいけれどね」
「では。せめてそうした時には」
吹雪、その時にはだというのだ。
「何があっても前に進める様にして」
「そうしてだね」
「行かれて下さい。そのうえでその日の先も」
「うん、そうした日だけじゃないからね」
毎日だ。それならだった。
吹雪を乗り越えてもまだ先があるのだ。過酷と言えば過酷だ。
しかし希望は決めたのだ。あえてその過酷に向かうとだ。だからだった。
「千春ちゃんがまた元気になるね」
「その時までありますからね」
「その為にはね。本当に何があっても」
どんな困難があってもだというのだ。
「僕は行くからね」
「そうして下さいね」
「じゃあ今日もまたね」
行くと言ってだ。そのうえでだった。
希望は実際にその日も千春に薬をかけた。そうしたのだ。
こうした日を続けた。だが二月も終わりに近付いた頃。夜にだった。
おばちゃんとポポちゃんがだ。夕食を食べながら希望に言ってきた。
「明日気をつけや」
「凄い寒いらしいぜ」
「いつもよりもなんだ」
「そや。もうマイナス何度とかで」
「雪も降るらしいで」
雪もあるというのだ。
「何か凄い大雪らしいから」
「ここ何十年もなかったみたいなな」
「そこまで凄いんだ」
二人の話を聞いてだ。希望は箸を動かす手を止めた。
この日のおかずは豆腐の味噌汁にニラレバ炒め、それに人参やブロッコリーを焼いたものだった
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