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歪んだ世界の中で
第二十話 災いの雷その十一
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「人間じゃないの。木だったの」
「そうだったんだ」
「驚かないの?」
「ううん。言われてみたら驚くけれど」
 だがそれでもだとだ。希望はいつもと変わらない顔で千春に言うのだった。
「千春ちゃんが僕のことを好きで僕が千春ちゃんのことが好きなのはね」
「それが変わらないから?」
「だからいいよ」
 こうその千春に言うのだった。
「それならね」
「有り難う。そう思ってくれるのね」
「千春ちゃんは千春ちゃんだよ」
 人間でも木でも。そのことは変わらないというのだ。
「他の誰でもないよ。けれどそうだったんだね」
「うん、そうだよ。動物も草木も長く生きてると」
「仙人みたいになんだ」
「力を身に着けるんだ」
 そしてだった。
「人間の姿になったりもできるんだよ」
「じゃあ千春ちゃんは木の精霊だったんだ」
 希望は彼女をそうしたものだと認識した。
「そうなんだ」
「そう考えてくれていいよ」
「そうなんだね。それでどうして今は」
「こうしてベッドの中にいるか?」
「何かあったのかな」
「雷が落ちたの」
 千春は弱った顔で希望にこう話した。
「千春に。それでなの」
「千春ちゃんの木の身体になんだ」
「そうなの。だからもうね」
「まさか」
「千春。もうすぐいなくなるよ」
 つまりだ。死ぬというのだ。
「そうなるよ」
「そんな、そんなことって」
「御免ね。千春希望との約束破っちゃうね」
 悲しい顔になっての言葉だった。
「もうこれでね」
「雷が千春ちゃんに落ちたから」
「それでなの」
「どうにかならないかな」
 希望は千春の枕元で深く沈んだ。その顔でだった。
 項垂れてだ。こう言ったのだった。
「千春ちゃん助からないかな」
「それは」
「何とかなるよね」
 これが希望の考えだった。
「まだね。絶対にね」
「希望。千春助けたいの」
「だって。千春ちゃんだから」
 彼女故にだ。そうだというのだ。
「そうしたいよ。絶対に」
「有り難う。けれどね」
「けれど?」
「千春、もうね」
 弱い言葉だった。最早。
「駄目だと思う。木が燃えたから」
「千春ちゃんが」
「千春は元々あそこにいるから」
 木が彼女、他ならないだというのだ。
「だからね。もうね」
「それは」
「御免ね、本当に」
 千春は希望に笑顔を向けてきた。だがその笑顔は。
 無理をして、希望に涙を見せまいとして必死に作っている笑顔だった。これが千春の精一杯の心でありその笑顔でだ。希望に言ったのである。
「千春。もうすぐいなくなるから」
「そんな。けれど」
「けれど?
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