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イベリス
第三十二話 夜の会話その三

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「ぼさぼさの髪の毛に厚眼鏡でノーメイクだと」
「そこに腹巻きもしてたら」
「誰もね」
「襲わないのね」
「声もかけないわよ」
 襲うどころかというのだ。
「そうなるのは格好次第よ」
「ださい恰好だと襲われないのね」
「あと奇抜な格好をしてもね」
 こちらもというのだ。
「襲われることはね」
「ないのね」
「あと声をかけられることも」
「そっちもないのね」
「例えば宇宙服着てる人に誰も声かけないでしょ」
「それ奇抜過ぎるでしょ」
「画家のダリは講演でしたわ」
 超現実主義に属するスペイン出身の画家だ、その外見や行動は意識して奇抜なものにしていたという。
「それで死にそうになったそうよ」
「酸欠になったの」
「ええ、それでね」
「あんな服普通は着ないわね」
 咲もこう述べた。
「やっぱり」
「ええ、けれどそんな服の人誰も声かけないわね」
「ドン引きして避けるわ」
 咲は自分ならと答えた。
「絶対に」
「そうでしょ、だからね」
「宇宙服ならなのね」
「そうなるわ、他の奇抜な服でもね」
「誰も声かけないのね」
「そうよ、ちょん髷でもでしょ」
「ええ、特に女の人がしていたら」
 咲はまた答えた。
「今だとね」
「だからそうしたファッションもね」
「自分の身を守ることになるのね」
「ええ、ただ楽にそうなるには」
「今の私みたいな恰好ね」
「そうよ、咲は高校に入って随分垢抜けて」
 そうなってというのだ。
「奇麗になったけれど」
「それでもなのね」
「今の恰好でそこに腹巻きでサンダルで」
 そしてというのだ。
「ガニ股で腰曲げていたらね」
「誰も声をかけないのね」
「下手したら変なおじさんと思われて」 
 十代の女の子どころかというのだ。
「それでね」
「声をかけられないのね」
「それで安全よ」
「ううん、じゃあ今度からコンビニに行く時は」
 家の近所のだ、咲の家の近くにもコンビニがある。もっと言えばスーパーもあるし商店街もありその商店街はシャッターが少ない。
「夜だとね」
「そうした格好で行くのね」
「そうするか最初からね」
「行かないわね」
「夜道に歩くことは」
 母の言う通りにというのだ。
「最初からね」
「しないに越したことはないわ」
「そうよね」
「ええ、女の子はね」
「夜一人で歩かないことね」
「それがいいわ」
 こう言うのだった、母も。
「やっぱりね」
「最初からよね」
「それが一番なのよ」 
 何といってもというのだ。
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