第17節「欧州からの学士」
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い去られるとは知らずに。
ff
闇夜を照らす、赤き炎。
否、それは暗がりを照らす温かなものではない。
明々と天へと昇る炎に焚べられているのは、無実の罪を擦り付けられ、村中の人々からの罵声を一身に浴びる男だった。
『キャロル……。生きて、もっと世界を識るんだ……』
男は……パパは、衛士に押さえつけられ遠ざかっていく娘を、どこまでも穏やかな笑顔で見つめていた。
『世界を……?』
『それが、キャロルの……』
「……夢?」
ぼやけていた視界がハッキリして来た頃、エルフナインはぽつりと呟いた。
目の前にあるのは、改修中のギアコンバーター。
周囲に広がるのは欧州の田舎ではなく、S.O.N.G.の本部潜水艦。ノーチラスの一部屋だった。
「数百年を経たキャロルの記憶……」
夢で見た光景に思いを馳せ……そして、顔を上げる。
モニターには、Project IGNITEの進捗と設計図が表示されていた。
時刻は15時37分。進捗率は89%であった。
「……10分そこら寝落ちてましたか。でも、その分頭は冴えたはず。ギアの改修を急がないと……」
器具を持ち替え、作業の続きに取り掛かる。
手を動かしながらも、エルフナインの脳裏には先程の夢がチラついていた。
『キャロル……。生きて、もっと世界を識るんだ……』
『世界を……?』
『それが、キャロルの……』
(……パパは何を告げようとしたのかな?)
炎の記憶の中で、父イザークの最期の言葉が繰り返される。
(その答えを知りたくて、ボクはキャロルから世界を守ると決めて……でもどうしてキャロルは、錬金術だけでなく、自分の思い出までボクに転送複写したのだろう……)
フラスコを持ち上げ、中を見る。
映り込む自身の浮かない顔を、エルフナインは静かに見つめた。
自分に生命を、知識を、そしてこの記憶をくれた彼女に思いを馳せて──。
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