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戦姫絶唱シンフォギアGX〜騎士と学士と伴装者〜
第17節「欧州からの学士」
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される。
しかし決して金銭はせびらず、ただ日々を錬金術の研究にあてながら、娘と慎ましく暮らす穏やかな性質は、彼がどこまでも善人だった証だろう。

魔術と科学の境が曖昧で、まだ医学の分野に宗教の色が濃かった時代に在って、知識を深め、見聞を広め、人間の力で運命を打開しようと努力する者。
それが少女の父、イザーク・マールス・ディーンハイムであった。

「のわあぁぁぁぁぁッ!?」
「ッ!?パパ……!?」

突然耳に飛び込む父の悲鳴に、少女は読んでいた本から顔を上げる。

目の前の竈で料理をしていた父は、黒い煙を上げるフライパンを手に、煤で黒く汚れた顔を振り返らせた。

「…………鍋が爆発したぞ?」
「ぷ……あははははは。もう、お料理なのに、どうして爆発させられるの?」

困った顔で娘を振り返る父の顔に、少女は鈴の鳴るような声で笑った。

「だがきっと、味は……味は……」

フライパンと鍋から料理を皿に移し、テーブルに並べる父親。
丸眼鏡の奥で、自信なさげに垂れる父親の目から何となくオチを予想しながらも、少女はナイフとフォークを手に、肉を切り分ける。

……乾いた赤土のように、硬い音を立てながらポロリと崩れる肉だったもの。

父親の方に視線を向けると、苦笑いで返された。

少女は不安を顔に滲ませながら、それを口に運び……うっ、と呻きながら土塊のようになった肉を咀嚼し、飲み込んだ。

「……美味いか?」
「……苦いし臭いし美味しくないし、0点としか言いようがないし」
「はぁ。料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違いないはずなんだけどなぁ。どうしてママみたいにできないのか……」

そう言って溜め息を吐きながら後頭部を掻き、台所の方を見やる父親。
まな板のそばに試験管やペトリ皿が置かれており、にんじん色の粉末や、じゃがいものような粉末が薬紙に積まれているのを見て、少女は訝しんだ。

数年前に母親が病死してから、料理ができるのはこの家の一人娘である少女だけだ。
たまには娘にいい顔をしたい父親だが、どうにも料理は不慣れらしい。

「明日はわたしが作る。その方が絶対に美味しいに決まってるッ!」
「コツでもあるのか?」
「ん……ナイショ。秘密はパパが解き明かして。錬金術師なんでしょ?」
「ははははは。この命題は難題だ」
「問題が解けるまで、わたしがずっとパパのご飯を作ってあげる。えへへ、ふふふ」

得意げに張った胸をドン、と叩き、少女は微笑んだ。

と、そこへノックの音が聞こえてきたため、親娘は扉を振り返る。

「わたしが出るね。パパは顔、拭いた方がいいよ」
「あ……ああ、そうだね」

娘が扉を開けると、そこには白衣の上から防寒用のマントを羽織った、黒髪の紳士が佇んでいた。


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