引ったくり犯
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メを突き飛ばした黒い影。
「わっ!」
「コヒメ!」
美炎は、バランスを崩したコヒメを受け止める。
コヒメの手から落ちた手提げ袋からは、図書館で借りてきた本たちが散らばった。
「ちょっと!」
美炎が声を荒げる。
コヒメに激突していたのは、全身黒ずくめの男だった。サングラスを付けるほどの日差しではないからこそ、その特異性が目立つ。がっしりとトートバックを胸に抱えていおり、見ただけで怪しさを感じてしまう。
彼は美炎とコヒメ、そして清香を一瞥し、走り去っていく。
「な、何なの? あれ……」
清香が戸惑いの声を上げる。
その時。
「引ったくりよおおおおおおおおお!」
空気を震わす悲鳴。
運動をしていなさそうな中年女性が、必死に走ってきているところだった。
彼女は美炎たちの前で膝を支え、黒服の男を指差す。
「た、助けて! 引ったくりよ!」
「引ったくり!?」
その単語に、美炎は思わず駆け出した。
抜群の運動神経で、彼の後ろを追いかける。
刀使である美炎の運動能力は、当然常人のそれを大きく上回る。
あっさりと、成人男性の腕を掴む。
「ちょっとストップ! ダメだよ、人の物を盗んじゃ!」
だが、引ったくり犯は即座に腕を引く。
すると、バランスを崩した美炎は、そのまま体勢を崩した。
「うわわっ!」
両手で、倒れる体を支える。
だが、その間にすでに彼は美炎から遠く離れていく。
「ま、待って! あ、清香! 先にコヒメと帰ってて」
「え? う、うん」
ほぼ不意打ち気味に、清香は頷いた。
美炎はコヒメを預け、そのまま改めて引ったくり犯を追いかける。
住宅街を越え、川を越え、公園を越え。
やがて、美炎が来たことがない見滝原の奥地へどんどん進んでいく。
幾つか地区を越え、大きな道路の中で。
その時。
「とうッ!」
それは、美炎の頭上。
歩道橋の上。そんな時間はないはずなのに、その姿に美炎は一瞬見惚れてしまっていた。
寒天の春空を泳ぐ、たった一つの影。
美炎を越え、窃盗犯を越え。
右膝と左手を地面につける三点着地。所謂スーパーヒーロー着地とも呼ばれる膝に悪そうな着地したそれは、少女だった。
褐色気のある髪をした、明るい顔付きの彼女は、凛々しい顔付きで引ったくり犯を睨む。
「それ以上はダメだよッ!」
彼女は、そのまま仁王立ちといった体勢で、引ったくり犯に構える。
引ったくり犯は、構わず少女に激突。
だが、少女は格闘技のように腕を繰り出し、犯人の腕を掴まえる。
そのまま、彼の腕を自らの肩に乗せ、そのまま肩を軸に放り投げた。
「我流 当て身投げ!」
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