第二章
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「わしはもう終わりだ」
「死ぬか」
「そうなる、長く生きて多くの僧を喰らってきたが」
それでもというのだ。
「それも終わり、もう輪廻に入ろう」
「次の生ではこうしたことをせぬ様にな」
「そうしよう」
こう言ってだった。
蟹はこと切れた、すると。
割れ目から五色赤と青、白に黒に黄色の雲が立ち昇ってだった。
そこから千手観音が出て来た、観音は法印に対して言った。
「よくぞ蟹を退治した」
「当然のことをしたまでです」
法印は観音に畏まって答えた。
「拙僧は」
「そう言うか」
「はい、人を喰らう蟹を退治したことは」
まさにというのだ。
「至極です」
「当然のことか」
「はい」
まさにというのだ。
「ですから」
「それでか」
「褒めて頂くことは」
これといってというのだ。
「ありませぬ」
「そうか、しかしそなたの功は見事である」
観音はこのことを認めた。
「その功を見てこの寺を護りたくなった」
「それでは」
「以後私をこの寺の本尊とするのだ」
こう法印に言った。
「よいな」
「はい」
法印は観音に強い声で応えた、そうしてだった。
これまで蟹に喰われた僧達だけでなく蟹も弔ってから村に降りてそのうえで全てを話した、そのうえで言った。
「拙僧は今から寺に入り」
「そのうえで、ですか」
「住んで頂けますか」
「廃寺でなくしますか」
「そうさせて頂きます」
こう答えたのだった。
「これより」
「ではお願いします」
「まさか寺に化け蟹がいたとは」
「何かいると思っていましたが」
「それが蟹とは」
「思っていませんでした」
「ですがお願いします」
「寺に入ってくれるなら」
「宜しくお願いします」
「それで、です」
法印はさらに言った。
「これからは千手観音様をです」
「寺のご本尊にされますか」
「これからは」
「そういえば今寺にはご本尊はなかったです」
「それではですね」
「丁度よくもありますので」
だからだというのだ。
「ここはです」
「はい、それではですね」
「これより寺に入られ」
「千手観音様をご本尊とされ」
「寺を戻されますか」
「そうします」
こう言ってだった。
法印は寺に入り廃寺となっていた寺を再興した。そしてだった。
救蟹法師と呼ばれる様になり寺の山号を蟹沢寺とした、蟹がいた沢もそう呼ばれる様になった。
これが山梨県にある長源寺に伝わる話である、今もこの寺に行くと蟹沢がありそこには静かに水が流れているという。そこに化け蟹がいたとは思えない程その沢の水は静かで奇麗だという。蟹の話は昔になったが水はそうなっている。
化け蟹 完
2021・
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