第一章
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化け蟹
甲斐の岩下にある長源寺は廃寺である、それは僧が来ないのではない。
来てもすぐにいなくなってしまうのだ、それでこの寺は廃寺であるのだ。
誰もがこのことに不気味なものを感じていた、寺に何かがあるとだ。
「何かいるのではないか」
「それで寺に入った僧がいなくなっているんじゃないのか」
「化けものがいるのではないのか」
「ではあの寺は廃寺のままか」
「それも仕方ないか」
「何かいるなら」
甲斐の者達はこう言って廃寺を仕方ないとした、得体の知れないものが寺にいるのなら仕方がないとだ。
「何がいるか気になるが」
「それもわからぬ」
「わし等も入ればどうなるか」
「化けものに喰われてしまうのではないか」
「なら仕方ない」
「入れぬ」
こう言って誰も入ろうとしなかった、何時しか寺に近寄る者もいなくなった。だがそんな中でだった。
法印という僧侶が来て寺の話を聞いて言った。
「実はです」
「実は?」
「実はといいますと」
「拙僧は諸国を旅しているのですが」
その為か日焼けして髭も目立っている、顔は痩せ身体はしっかりしている。僧衣もかなり汚れている。
「この地に異様なまでの妖気を感じまして」
「それで、ですか」
「こちらに来られたのですか」
「そうなのですか」
「はい」
そうだというのだ。
「それでそのお話を聞いてです」
「寺のことをですか」
「廃寺になっている寺のことを」
「そうなのですか」
「その妖気は間違いなくです」
法印は強い声で述べた。
「そこからのものです」
「寺から」
「その妖気が出ていますか」
「異様なまでに」
「ですから」
それでというのだ。
「これよりすぐにです」
「寺に入られ」
「そうしてですか」
「妖気の元を抑え」
「そして寺もですか」
「元の寺に戻させて頂きます」
こう言ってだった。
法印は寺に入った、そうしてだった。
夜を待ったがその夜になると。
寺の中に何かが来た、一面妖気に覆われ闇の中から言ってきた。
「両足八足」
「八本か」
「大脚二足」
こうも言ってきた。
「横行自在にして眼天を差す時如何」
「答えよというのだな」
「我は何か」
「蟹である」
こう言ってだ、法印は。
くわっと目を剥き声がした方に叫んだ。
「喝!」
「!?」
すると闇が消え去りそこに三メートルはある巨大な僧がいた、だがその僧は。
すぐに畳四畳はあろうかという蟹になってだった。
一旦逃げようとした、そこに寺の西の沢があることは既に法印は知っていた。昼のうちに寺の中を見回っていたのだ。
それで実は寺の裏の渓流も見てそこにちらりと蟹も見た、それに蟹に喰われた者達の骨もその
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