第二章
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その犬にだ、彼は穏やかな声をかけた。
「家に行こうな」
「クゥ〜〜〜ン」
犬は怯えていた、だが。
彼はその頭を優しく撫でてだった。
そのうえで犬を優しく引き取ってそうして言った。
「じゃあな」
「それならですね」
「この子を家に連れて帰るな」
「宜しくお願いします」
一緒にいた碧は彼に応えた。
「幸せにして下さい」
「ああ、絶対にな」
彼も頷いた、そしてだった。
犬をマリと名付けて家に連れて帰った、そうして妻の喜久子に話した。
「この娘もな」
「これからは家族ね」
「そうだ」
こう妻に言うのだった、背が高くもう七十だがまだ気品のある美しさの彼女に。
「そうなったからな」
「わかったわ、じゃあね」
「チクとも会わせるか」
「そうしましょう、チクこっちよ」
「ワンワン」
一匹の雌のゴールデンレッドリバーが来てマリを見てだった。
親しく近寄ってきた、彼女の顔を舐めた。
「ワン」
「ワンッ?」
「ワンワン」
驚くマリを優しい目で見てだった、そうして。
彼女を家族に迎え入れた、葛飾はその彼女を見て言った。
「命なんだ」
「だからね」
「大事にしないといけないんだ」
「そうよね」
「この娘は繁殖犬だったらしいんだ」
「何か繁殖用の生きものって」
「子供を産む道具だ」
それに過ぎない扱いを受けているとだ、妻に話した。
「そして子供もな」
「商品なのね」
「只のな、しかし命なんだ」
葛飾は強い声でこうも言った。
「だからな」
「それでよね」
「人間と同じなんだ、だからな」
「大切にしないといけないわ」
「この娘は全身色々付いて毛も洗ってなくて切ってもいなくてな」
「産まれてずっと?」
「それでケージの中に入れられていたらしい」
ずっと、というのだ。
「そんなのだからな」
「生きられる環境じゃないわね」
「そんなところにいたからな」
だからだというのだ。
「心ある人が保護してくれたんだ」
「保護されなかったら」
「ずっと商品を生み出す道具でな」
「産めなくなったら用済みね」
「それで捨てられていたんだ」
「酷いわね」
「チクだってそうだろ」
今もマリの顔を舐めている彼女を見て言った。
「そうだったな」
「誰かに捨てられていて」
「そしてな」
「そうしてだったわね」
「ああ、保健所に収容されて」
「ボランティアの人に助けられていたわね」
「世の中平気でそうしたことをする奴がいるんだ」
葛飾は吐き捨てる様にして言った。
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