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イベリス
第三十話 ゴールデンウィークが終わってその十一

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「そうですね」
「はい、ですから」
「このことをですね」
「覚えておいて下さい」
「そうします」 
 速水に率直な声で答えた。
「これからは」
「難解は真理ではなくです」
「むしろまやかしですね」
「そう思っていいです」
「わかしました」 
 咲の今の返事は率直で素直なものだった。
「これからはそう思って」
「漫画や本を読まれますね」
「そうします」
「論語や老子も言語の漢文ならわかりにくいですが」
 それでもというのだ。
「現代の日本語に訳しますと」
「わかりやすいですか」
「はい、源氏物語でもです」
 難しいと言われるこの作品もというのだ。
「現代語訳、谷崎潤一郎や円地文子や田辺聖子訳ならです」
「わかりやすいですか」
「恋愛小説です」
 そうなるというのだ。
「これが」
「源氏物語も」
「元々そうしたものとして読まれたもので」
「難しく読まなくてもですか」
「いいのです」
「そう、ですか」
「これが」
 実はというのだ。
「そうしたものです」
「難しい作品と思っていましたが」
「古典の文章は今の文章でないので読みにくいですが」
 紫式部の文章の影響もあるという、この平安の才媛の文章は特徴がありその分作品を難解にしているという。
「それを現代語訳にすれば」
「楽にですか」
「読めまして」
 そしてというのだ。
「わかりやすいです、ですから」
「簡単、わかりやすいことは」
「それはそのまま真理なのです」
「そうなんですね」
「まやかしは難しいふりをしてです」
「騙そうとしているんですね」
「そうしたものであることが多いので」 
 それでというのだ。
「このことを覚えて」
「そうしてですね」
「人生を歩まれて下さい」
「そうしていきます」
 咲は速水の言葉に頷いた、そうしてゴールデンウィーク最後の日を過ごした、だが次の日彼女に思わぬことが起こったのだった。


第三十話   完


                  2021・9・8
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