幕間:詩花、図らずの初陣に臨む事
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いった様子の声で、謝辞を紡いだ。
「...ありがと」
「うん」
「...ちょっと休むわ。胸貸して」
「うん」
仁ノ助の胸にしな垂れる詩花。仁ノ助は彼女の心を安らげるようにその背中へと手を回し、穏やかな抱擁を以って彼女を受け入れた。仁ノ助の服を掴んで瞳を閉じている詩花は、心中に蔓延する驚愕と恐怖を癒そうと、安眠の海に意識を漂わせていった。
濃淡混じる青空を天に、生き血が大地を流れて乾いていった。
「...良い天気だな」
馬に乗って闊歩している女性が一人、空を見てごちる。綿雲がそよそよと漂す様はまるで天の川を泳ぐ小魚のよう。快晴と言うに及ばぬが、晴天に相応しき爽やかさを抱く空模様である。
その隣にて同じく馬を合わせていた男性がいる。黒の鉢巻を頭に巻き、其の先から鉢巻の紐がゆらゆらと揺れている。雲のような白い外套の背には、大きな蛮刀が担がれている。
その男性の視線の先には、天の広大さとはかけ離れた、しかし雄大なる威勢を持つ一つの山が聳えている。高さは無く、寧ろなだらかといった表現が適したそれが横合いに大きく広がる様に、男は中原における美の一つの形を捉えた。
「...見事な山ですな。華美に現を抜かさず、それでいて壮麗さを纏っている。中原の雄大さを、そのまま象徴しているかのようです」
「ん?あぁ、確かに見事だ。私の詩才があれば此処で一句読んでみせるのだがな」
「それもそれで気になる所ですが、願わくばそれは、我等が主にお任せ致しましょう、夏候惇将軍」
言葉を掛けられた女性、夏候惇は淡く笑みを浮かべ、自慢の黒い長髪をさらりと靡かせた。肩口に髑髏を飾り、紅と蒼が混じり、金色の縁取りを描いたチャイナドレスを身に纏っている。背には長身の自分自身と同じほどの刀身を誇る大剣、七星餓狼が担がれている。
彼女は両方の眼を閉じて、一つの言葉を諳んじた。
「『将とは、唯武を振るう者に非ず。諸人の深に迫り、その心を抱く者也。故に武のみに精通する事を良しとせず、学もまた精通するべし』」
「それは...何方の御言葉でしょうか?」
「小さき頃、私と秋蘭に覇者という存在を教えて下さった、華琳様の御言葉だ。今でも心に残っているぞ...初々しき愛眼の中に煌く、覇者の光を」
矜持を抱いた瞳がきらきらと光る。其の眼の中に、矮躯であるもその身に留まらぬ大いなる覇道を掲げた少女の姿を幻想する。
「華琳様の天に覇を敷かんがため我等は決起した。其の為ならば...」
「夏候惇将軍っ!!」
前方より、一人の兵士が疾走してくる。足を止めた夏候惇らの前に膝を突き、左手の中に右手の拳を包み込んで顔の前に掲げる。その状態で兵士は言う。
「前方にて、賊徒の集団を発見致しました。旅人数名と交戦している模様
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