幕間:詩花、図らずの初陣に臨む事
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けるのを見据え、同時に確かな手応えを感じた。
(...はっ。意外と、風が切れる音でなんとかなるなっ!)
「あああああああっ!!!」
「喧しいんだよっ!」
目の前で蹲った物体目掛け仁ノ助は剣を突き刺す。どすっと、肉を貫く重い音が響き、鼻を突く生臭い鉄の香りが香って来た。
「...に、肉...」
弱弱しく、哀れみを誘うかのような声。段々と開けてくる仁ノ助の視界に、右肩から先をばっさりと切落されて、呉鉤を左の鎖骨辺りから真っ直ぐに背中へと貫かれている男の姿が映る。大量の鮮血を流す男目掛け、仁ノ助は止めとばかりに、剣を更に深く突き入れる。
「餓鬼道に堕ちた屑との約束なんて守るかよ。とっとと死んで、腐肉の海で泳いでいろ」
男の体躯に足を置き、男を蹴り倒しながら剣を引き抜く。血肉を引き摺りながら剣先が現れ、鮮血が夥しく毀れていく。それを機に、男が地面に倒れこんで動きを止めた。
末期を見送る事無く仁ノ助は詩花の下へと駆け寄り、戟と掴んだままの男へ声を掛けた。
「おい」
「ぁっ」
男が振り向いた瞬間、仁ノ助は剣を横薙ぎに振るって男の頸を切落す。僅かな血飛沫と共にころりと男の頸が地に落ちて、戟がからからと揺れた。色を失った瞳が憎憎しげに天を睨んでいる。
仁ノ助は詩花に駆け寄り、両肩を掴んで揺する。
「詩花っ、詩花!」
「......は、はは...殺しちゃったよ」
力の抜けた声で呟く。目の前で始めてみる凄惨な死体、賊徒の奇襲、そして図らずも手に掛けた男の末期。立続けに起きた事態に脳の回転が追いつかず、呆然となるより他ならぬ彼女の顔は、まるで煤けたように色を失っている。
「もう、訳分からない...なんでこんな事...」
仁ノ助は詩花の肩を優しく叩くと、男の手より戟を外しに掛かる。その折、頭部と物別れになった男の服装から、一つの木片が見えているのを捉える。それを掴んで裏返すと、血濡れの文字が刻まれてあった。
「『妹 林、贄、辱』...か。本当に全滅したようだな...」
仁ノ助はそういって街を見渡す。今斬り殺した男らの正体に大体の見当がついてきた。はぐれ賊徒か、壊滅した山賊団の元首領、といったろころであろう。物言わぬ躯となった今ではそれを確認する術は無いが、仁ノ助の興味に値する問題ではなかった。
彼は詩花に近寄り、腰を下ろして声を掛けた。
「詩花」
「......なに」
優しげに仁ノ助は詩花の頭に手を置き、あやすように撫でていく。
「初陣を乗り越えたぞ。これでお前は、もう一人前に戦場へ出れる、立派な女になったんだ。...よく生き残った」
その言葉に反応して、詩花が憔悴した瞳を彼に向ける。何度か瞬きした後に目を閉ざし、疲労困憊と
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