幕間:詩花、図らずの初陣に臨む事
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るえるようにしておけ」
「なんでよ?村人を助けないといけないんじゃーーー」
「生きてる者が善人だけだと、誰が決めた?」
冷えた鉄のように鋭い視線に詩花は押し黙る。言われてみればその通りだ。燃え滓の中に残った金目の物を探しに賊徒が入り込んでいるのかもしれない。
(...卑しい)
詩花は歯を噛み締め、賊徒の卑しさに怒りを抱く。
仁ノ助は一方で死骸を慣れた様子で観察する。
「...腐敗が余り進んでいない...死んでから、あまり日にちが経っていないな」
「...っ...なんか臭わない?なんというか、鉄臭いというか、生臭いというか」
「...言われてみればそうだな。何処からだ?...あの小屋か」
町の外れ、黒い残滓となった家屋とは対照的に、炙りを受けて壁が焦げているが、未だ外観らしい外観を保った家屋に目をつける。
崩落した家屋の近くに馬を留めて、両者は得物を携えて其処へ近付く。呉鉤を抜いて仁ノ助は壁に寄り掛かり、一息吐いた後、身を翻して思いっきり戸を蹴破る。倒れた戸により埃が巻き上がり、日光を浴びてそれが宙を漂うのが見える。仁ノ助は素早く中へ身を滑らせ、『ねちゃっ』と、足元に響いた水音に固まった。否、正確には屋内に広がる惨状を見て、固まったのだ。
「...っ...嘘だろ?」
「ど、如何したのよ?」
「詩花、お前は見るんじゃない。刺激が強過ぎる」
何時になく緊迫感に満ちた声。だが詩花は己の武才が下に見られていると思い、怒声を吐く。
「...馬鹿にしないでよっ!幾ら私が足手まといだからって、死体一つでビリビリするような柔な女じゃないわよ!」
「だがそれでもあれは余りに酷い。見ない方がいいぞ」
「どきなさいっ!肝が据わって、立派に戦場に出れる女だって証明してやるわ!」
詩花は仁ノ助を押しやるように家屋の中へと入り込み、そして、其処で目の当たりにした光景に言葉を失う。
「......ぁ...ぁぁ...っぃ...」
群れた蛆だ。一匹や十匹やそんな柔な数ではない。凡そ、目視では試算する事も適わぬほどの大量の蛆が座敷の上に沸いている。まるで麦に集る飛蝗のよう。幾万匹のそれが集まるのは、幾多も折り重なって山を気付いている死骸だ。黒い波の内より腐敗した肌を見せているそれは、男のものではない細さを辛うじて保っている。蛆の群集に阻まれながらも、微かに女性の双丘らしきものが見えた。仁ノ助は引き攣った顔で察する。飢餓に苦しんでいた所を賊徒に襲われて、男子供は虐殺され、欲情を誘う女は家屋に監禁、只管に賊徒の暴虐を受けていたのであろう。
惨禍の極みを達する情景を彩るように、臭覚を腐らせるような生々しい異臭が立ち込め、かちかちと歯を合わせて肉を千切る蛆の演奏が響き渡る。耐え切れずに詩花は入り
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