幕間:詩花、図らずの初陣に臨む事
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ともでいられるか、ビクビクしてんだろ?」
「...まぁ、其の通りだけど」
鞍に吊るされた両名の得物は、未だ人一人の生き血を啜っておらず、偶に野生の獣を捌くだけの野良包丁と化している。てっきり旅すがら殺陣の一つや二つに参じると思っていた詩花にとっては若干拍子抜けの事態ともいえたが、其処へ参じる決意もまだついていないのも事実。
仁ノ助は彼女の不安を解すように軽く言う。
「俺との鍛錬で見る限り、賊相手に遅れを取るような光景なんて想像し難いぜ。心配しなくても良いんじゃないか?」
「そうなんだけどっ...やっぱり、武器を持つからには何れそういう状況が来ると思うからさ...せめて足手まといに成らないように、ね」
「...今は気持ちだけでいいさ。厄災が何時来るかなんて、天でも早々分かるもんじゃないって」
飄々と言いのける仁ノ助。それでもまだ信じられぬように疑わしげな瞳をする詩花に向かって、彼は前方へ指差す。
「ほらっ、そろそろ村だ。気持ちを切り替えていこうぜ」
「...そうね。難しい事を考えるのは、御飯を食べた後にしましょ「悪い、詩花」...なに?」
「上手い飯は、もっと後になりそうだ」
「...っ!賊なの!?」
険しい顔付きになる彼を見て、詩花は焦燥を顕して戟を掴んで右肩に担ぎ上げた。彼の視線の先を辿るも何も現れない。もしや殺気を感じたのかと周囲を窺っている最中、仁ノ助が頸を横に振る。
「違うよ。村だ」
「は?む、向かってるのが村なのは当たり前でしょ?何が悪い事だっていうのよ?」
「...近付けば、分かるよ」
訳が分からぬといわんばかりに彼女は目を開く。何も言わぬ仁ノ助は馬脚を早ませる事無く、その先に見えてきた村へと進んでいく。訝しげなままでいた詩花は、やがて外観を明瞭にさせてきた村を見て納得を覚え、同時にその惨状に閉口する。
「......嗚呼、そういう事なのね」
「そういう事だ」
火打ちを受けたか、黒焦げとなった骨組みのみが残った家屋。崩落した幾多もの木材に圧し掛かられた大地。その陰に横たわるのは、人の形をかろうじて保った焼死体。肉肌焦がした今では老若男女の違いなど微々たる物。強烈な炭の臭いの中に、有機物がまとめて焦げたような生臭さが残る。これこそ焼死体の臭いだ。その例に漏れずとも、木の枝よりも痩せ衰えた死骸がころころと障害物のように転がっている。飢餓に苦しんでいたところを賊徒に襲われたのか。
村の中に馬脚を踏み入れた二人はちらほらと視線を巡らし、その惨禍に居た堪れない思いを抱く。明らかに大人の大きさをしていない黒炭を見た時は、胸がきつく締め付けられた。
「生きてる人、一人くらいは居るよね...?」
「居ても碌な目には遭ってないな、此の様子では。詩花、何時でも武器を振
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