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イベリス
第二十九話 報いを受けた人その十一

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「そうなの?」
「お母さんと昔お会いしたことがあるの」
 教師と生徒の関係だった、だから友達同士の関係ではないのでこう答えた。
「僕のお母さんとね」
「そうだったの」
「ええ、それで僕のお母さんどんな人?」
 咲は男の子の顔を見て尋ねた。
「僕から見て」
「凄く優しいよ」
 男の子は咲に澄んだ笑顔で答えた。
「最高のお母さんだよ」
「そうなのね」
「うん、僕にもお父さんにも他の皆にも優しいよ」
 こう咲に話すのだった。
「凄くね」
「誰にもなのね」
「そうだよ、お母さんみたいな優しい人いないよ」
「お母さん大好きなのね」
「大好きだよ」
 即答だった、その返事も澄んでいた。
「本当にね」
「そうなのね、じゃあお母さんを大事にしてあげてね」
「そうしていくよ、お母さん行こう」
「ええ、そうしましょう」
 見れば女性は咲と我が子のやり取りを前にして涙を流しそうになっていた、だが我が子に言われてそうしてだった。
 咲に深々と頭を下げてから男の子と一緒に電車を後にした、その後で。
 咲は家に帰るとすぐに愛にその話をした、すると愛は咲に携帯の向こうから言った。
「いいものを見られたわね」
「そう言ってくれるのね」
「ええ、店長さんの言われたことも素晴らしいし」
「先生にお会い出来たことも」
「いいものよ、だからね」
 それでというのだ。
「咲ちゃんこのことを忘れないでね」
「ええ、ずっと覚えておくわ」
 咲は愛に答えた、もうラフな部屋着に着替えて自分の部屋で愛に電話をしている。
「これからもね」
「そうしてね」
「わかったわ」
「悪いことをしても」
 愛もこう言った。
「反省して」
「素晴らしい人になれるのはね」
「人間はね」
「そうよね」
「私はそうした人にはまだ会ってないけれど」
「お姉ちゃんはなの」
「まだね」
 こう言うのだった。
「会ってないわ」
「そうなの」
「いい人には会って」
 そうしてというのだ。
「悪い人にも会ってるけれど」
「酷いことをしても反省して改心した人にはね」
「反省した人は?」
「そうした人は見たことあるけれど」
 それでもというのだ。
「そんな。人種差別で迫害したり」
「鬼みたいな先生が」
「反省してね」
「改心していい人になった場合は」
「なかったわ」
 そうだというのだ。
「これまでね、今聞いたのがね」
「最初だったの」
「そうだったわ、だから思うの」
「私は素晴らしいものを見られたのね」
「それでお話してもらったことも」
 こちらもというのだ。
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