第七十四話 戴冠式
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新トリスタニアを出航したベルギカ号は、偏西風をに乗ると全速力でアトランティウム洋を突っ切り、僅か五日でトリステイン近海まで辿り着いていた。
マクシミリアンは、船室にてド・ローテルに会っていた。
「殿下、本艦はヴァールダムに寄らずトリスタニアまで直行いたします。海面を離れる際は多少揺れますので、ご注意下さい」
「分かった。艦長、あとどの位で陸地か分かるか?」
「あと一時間もかかりません」
「そうか」
「それでは、失礼いたします」
ド・ローテルは退室すると、マクシミリアンはベッドに横になった。
航海中は、帰国した際に読み上げるためのスピーチの起草ぐらいしかやる事も無い為、暇で暇でしょうがなかった。
他にやる事といえば、コマンド隊を呼んでの酒盛りぐらいだった。
「……」
ベッドに寝転がった状態のマクシミリアンは、天井をボーっと見続けると小刻みに震えだした。
「クソッ!」
マクシミリアンは、この震えの正体を知っている、それは不安だ。
誰か人と会っている時は『賢王子マクシミリアン』を演じている為、問題は無いが、一人になれば『演技』をしなくてもいい為、不安が襲ってくる。
こういう時は部屋を出て艦内を散歩するか、守衛のアニエスを呼んで適当に雑談をするか、浴びるほど酒を飲んで寝てしまうかの三通りしかない。
この不安が気に入らないのは、『父親が死んで悲しいから不安』なのではなく、『これから国王としてトリステインを一人で背負わなければならないから不安』だからという事なのだ。
「どんなクズ人間だよオレは」
ボソリと呟くと、ベッドから飛び起き部屋を出た。
部屋を出るとアニエスが守衛をしていた。
「外出ですか?」
「そんな所だ」
守衛のアニエスに一言言って、マクシミリアンは部屋を離れた。
(少なくとも、人に囲まれていれば不愉快な不安に襲われる事は無い)
そう内心呟き、逃げるように甲板まで歩いた。
甲板から海を眺めていると、水平線の先に薄っすらと陸地が見えた。
「……帰ってきた」
干拓事業によって広げられた海岸線を見て、マクシミリアンは呟いた。
☆ ☆ ☆
エドゥアール王が崩御して以来、カトレアは魔法学院に休学願いを出すと王宮に泊まりこみ、マザリーニのフォローを受けながら政務を行っていた。
「王太子妃殿下、これらの書類にサインをして頂ければ、今日の仕事は終わりでございます」
「ありがとうマザリーニさん」
多少は慣れたのか、カトレアは羽ペンを器用に動かして書類にサインをした。
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