第十五章 慶賀応芽
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東京都上空。
リヒト関東支部の上空。
びょおびおょと鼓膜を殴り吹く強風を、身に受けながら、二人は対峙している。
金属が打ち合わされる音が鳴るが、それは響かず一瞬、びょおびょおと、強風が攫って消し去ってしまう。
周囲ただ風あるのみ、という自由な空間の中で、この風よりも遥かに激しい、二人の戦いが行われている。
空中であり、重力に身を支配されていたら当然、自由な空間になど成り得ない。彼女たちは、重力を逆に支配するどころか、さも完全に無視し、透明な足場にどっしり立っているかと見まごう、戦いを戦っていた。
慶賀応芽。
身を覆うのは、真紅の魔道着。
本来ならば、令堂和咲が着るはずだった物だ。
両手に握り操るは、ひと振りの剣。
対するは、青い魔道着の令堂和咲。
構えているのは、二本のナイフ。
武器も魔道着も、昭刃和美の一式だ。
自分のクラフトが、応芽に破壊され、変身出来ないため、彼女のものを借りているのだ。
空気、という足場に、大地の如くしっかりと両足で立ち、戦っている二人。
かと思えば突然、風に舞い上がって、幾多の残像を作りながら刃を打ち合わせ、新たな足場に立って、また刃を打ち合わせる。
一見すると、互角の戦いだ。
打ち、防ぎ、防ぎ、打つ。
ナイフと、剣の攻防は。
ただし、お互いの顔を見れば、そこには明確な違いがあった。
明確な優劣が、存在していた。
応芽の顔に浮かんでいるのは、喜悦にも似た笑み。
本心か、演技か、分からないが、自分に余裕ありと思っているのは間違いないことだろう。
対するアサキの顔に浮かぶのは、焦り、それと、とにかく食らいつこうという必死な表情。
さらに刃を交え続けるうち、状況に変化が訪れていた。
だんだんと、二人の作る表情の通りになってきていたのである。
この、戦況そのものが。
「令堂、どないした? 最初の威勢は? カッコ付けて啖呵を切ってた、あの態度は、どこへいったんやあ?」
ははっ、笑いながら、応芽は、アサキの胸を切り裂こうと、剣を真横に薙いだ。
爪先で空間を蹴って、退き逃れたアサキ。
視線を軽く落とし、胸の防具に付いた横スジを見ると、ふうと小さく安堵の息を吐いた。
だがそこへ、息つく暇を与えまいと、応芽が飛び込む。
かろうじて避けるアサキであるが、執拗に応芽の刃が追い掛ける。
これがいつまでも繰り返される。
アサキは、かわすだけで精一杯になっており、それはつまり応芽の攻撃ターンが延々と続くということだった。
圧倒
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