第六百三十六話 泉燗その一
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泉燗
ギルバートと共に後夜祭が行われる学園のグラウンドに出たアンはすぐに出店の一つからあるものを差し出された、それは何かというと。
「日本酒ね」
「そうだな、しかしな」
ギルバートは碗の中の酒を見て言った。
「随分と熱そうだな」
「ええ、まだ沸騰しているわ」
「ここでは熱燗出してるのよ」
出店の店員の赤髪の女の子が言ってきた。
「振舞っているのよ」
「そうなの」
「冷やもあればね」
それと共にというのだ。
「こちらも用意してるの」
「それでもこれは」
「今年はちょっと趣向を変えてね」
「熱燗でもなの」
「もう徹底的に火を入れて」
そうしてというのだ。
「ぐらぐらと煮えるまでね」
「火を通したの」
「そうした風にしたの」
「また凄い熱燗ね」
「今年の熱燗のお店の店長さんがね」
この人がというのだ。
「第二文芸部の部長さんで」
「第二文芸部は日本文学だったな」
ギルバートはその部活と聞いて言った。
「そうだったな」
「ええ、私もだけれどね」
「第二文芸部の部員か」
「そうよ、グアテマラ生まれで」
それでというのだ。
「部活はね」
「第二文芸部か」
「そこにいて」
そしてというのだ。
「部長さんが店長さんでね」
「それはわかったがどうしてこれだけの熱燗にしたんだ」
「これ泉鏡花さんの好みなの」
「泉鏡花、明治から昭和の文豪だな」
ギルバートは泉鏡花と聞いて述べた。
「そうだったな」
「妖怪をよく書いたね」
「そうだったな」
「荒野聖とか歌行灯とか天守物語の人よ」
その代表作も挙げられた。
「それでその泉鏡花さんがね」
「こうした酒が好きだったか」
「一度チフスになって極端な潔癖症になって」
そうしてというのだ。
「それからね」
「そうして飲む様になったか」
「何でも火を通して食べて」
「お刺身は食べなかったか」
「あと蛸とか蝦蛄とか形の不気味なものも」
そうした食材もというのだ。
「それでお豆腐もね」
「湯豆腐か」
「そうして食べていたの」
「そうだったのか」
「それでお酒もね」
「沸騰させてか」
「それも煮立つまで」
そこまで熱してというのだ。
「そうしてね」
「そのうえで飲んでいたか」
「消毒して」
「極端な人だったんだな」
「あと犬もね」
この生きものもというのだ。
「狂犬病だから」
「嫌っていたか」
「そうだったのよ」
「そうか、それはイスラムと一緒だな」
ギルバートは話を聞いて思った。
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