第二章
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「ドイツやスペインでも密かに出版され遂に」
「遂に?」
「ヴィクトリア女王の頃にイギリスの占星術師ジョン=ディー博士が英語版を翻訳したんだ」
「そして遂に僕達も読める様になったんだね」
「ラテン語に弱くてもね」
かつての欧州共通言語だったこの言語にもというのだ、ローマで使われローマ=カトリック教会が使っている言語だ。
「それでもだよ」
「成程ね」
「しかし」
シュテファンはここでヤンに語った。
「この英語版は問題があるんだよ」
「というと?」
「原典、アラビア語のものと比べると抜け落ちが酷いそうなんだ」
「そうなのかい」
「だからかなり不完全らしい」
「そうなんだ」
「それでも戦乱や焚書で随分失われていて」
そうなっていてというのだ。
「もう十一部しかないそうだ」
「全世界でかい」
「そうらしい、しかも」
シュテファンは紅茶を一口飲んでから述べた。
「完全に近いのは五部か六部でね」
「少ないね」
「残りは欠落の写本だそうだ」
「世界でそれだけかい」
「もうアラビア語のものとギリシア語のものはないらしい」
「残るはラテン語のものと英語だね」
「そうなんだよ、そして持っている人は」
その僅かなもののというのだ。
「その内容をあえて言わないそうだ」
「魔道書だからだね」
「そこに罹れている内容はあまりに恐ろしく」
そしてというのだ。
「その重みに殆どの人が耐えられない」
「だから教会も焚書にしたと」
「そう、そんな魔導書なんだよ」
「恐ろしいね、しかしね」
ヤンはそれまで真剣な顔で聞いていた、大学の中の喫茶店でそうしていたのでその顔は場に相応しいものだった。
だがここで急に笑ってこう言った。
「それがね」
「ラグクラフトの創作でないとね」
「凄かったよ」
「まあ創作にしてもね」
「よく凝った設定だよ」
「ラグクラフトの凄さがわかるね」
「確かにね」
こうシュテファンに返した。
「僕もそう思うよ」
「僕も同じだよ、元々魔導書なんて実在するかどうか」
「わからないものばかりだね」
「そうしたものだよ」
「そうだね、実在するものは確かにあるけれど」
ヤンもそれはと述べた。
「中にはね」
「ないものも多いさ」
「そうだね」
「そして著者も」
それもというのだ。
「ソロモン王が書いたとあっても」
「実は違うものだね」
「黙示録だってそうだね」
「ヨハネのだね」
「ヨハネが書いたものかというと」
キリストの弟子の一人だった彼がというのだ。
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