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おとろし
第一章

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                おとろし
 大和の国に伝わる話である。
 山の麓にある古い神社に何かあるというという、何でも落書きや悪戯をしようとすると何かが落ちる音がして驚かせて退散させたり襟首を掴んで吊り上げて放り投げて追っ払うといったことが起こっていた。
 それでだ、その話を聞いた幕府より大和の守護を任されている興福寺の僧侶の一人である宗慶が言った。
「仏門ではないことであるが」
「それでもですね」
「ことの次第をわかっておかねばなるまい」
 若い僧にこう述べた、不惑を迎えた太い眉の大柄でがっしりした身体の僧侶である。
「やはりな」
「だからですか」
「その神社に行き」
 そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「どうしてそうしたことが起こっているかをですか」
「知ってそしてな」
「収めることもですか」
「しよう」 
 こう言うのだった。
「この度はな」
「そうされますか」
「ではすぐにその神社に行こう」
 山の麓にあるその神社にというのだ。
「よいな」
「それでは、ではすぐに僧兵達も」
「いや、拙僧とお主で行く」
 二人でとだ、宗慶は若い僧侶自分の弟子である康慶に答えた。
「まずはな」
「何がいてもですか」
「拙僧もお主も僧兵でもある」
 宗慶は笑って言った、実は彼は興福寺の僧兵達を率いる僧の一人であるのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「ここはな」
「まずは二人で、ですか」
「行って拙僧達でことが収められぬなら」
「あらためてですか」
「僧兵達を連れてな」
 その時にというのだ。
「話をしよう」
「それでは」
 康慶も応えた、こうしてだった。
 二人は興福寺からその神社に赴いた、そうしてまずは神主に聞くと神主は二人に困った顔で述べた。五十過ぎの皺だらけの顔の男だ。
「いや、それがです」
「何がいるかですか」
「わしにもわからぬので」
 それでというのだ。
「困っています」
「そうなのですか」
「落書きや悪戯をしようとする悪童や不心得な者がいますと」
 それならというのだ。
「急に出て来て」
「そうしてですか」
「落ちてきて大きな音で驚かせて退散させたり」
 宗慶が聞いた話をそのまました。
「襟首を掴んで放り投げて追い払ったり」
「そうしていますか」
「悪戯者を追い払ってくれることはいいにしても」
「その姿が見えないなら」
「これは随分と困ったことなので」
 それでというのだ。
「こうして来て頂いて」
「有り難いですか」
「はい、ではこれより」
「はい、調べさせてもらいます」
「宜しくお願いします」
 神主にも言われてだった。
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