第二章
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二人で幾多郎の家に入って彼女の母に先程見たものを話した、すると。
幾多郎の母、フキという大正の末に生まれた彼女はでっぷりと太っていて着物にエプロンという恰好だった。その彼女が二人に話した。
「それは三丁目の湯上さんね」
「その人が変なおじさんなんだ」
「ええ、戦争に行ってね」
第二次世界大戦、それにというのだ。自分の息子に話した。
「怪我をして痛みを忘れる為にヒロポンをやって」
「ヒロポンって何?」
幹弘が問うた。
「一体」
「危ないお薬よ。使ったら頭がおかしくなるのよ」
「頭が」
「昔は煙草屋さんで売られていたけれど危ないからってね」
そう言われてというのだ。
「使ったら駄目なお薬でね」
「あのおじさんそれを使っているんだ」
「まだ使っていい時に使いはじめて」
そしてというのだ。
「今もなのよ」
「使ってるんだ」
「ええ、一回使うともう止めたら凄く辛くなるお薬だから」
今度は自分の息子の問いに答えた。
「止められなくてよ」
「あの人ずっとヒロポン使っているんだ」
「悪い人達が売ってるから」
「悪い人達って?」
「ヤクザ屋さんよ」
息子そして幹弘にわかりやすく話した、事実なのでそのまま話した。
「その人達がこっそり売ってるの」
「それで使っても駄目なのに」
「売ってもらってね」
そうしてというのだ。
「使っているの」
「そうなんだ」
「それじゃああの人悪い人?」
幹弘は幾多郎の母に問うた。
「悪い人に売ってもらってるって」
「悪いんじゃなくて可哀想な人よ」
「そうなんだ」
「そう、戦争に行って怪我をして」
そしてというのだ。
「痛いからね」
「お薬使って」
「それで使ったら駄目になってもね」
「止められなくて」
「まだ使っているから」
それでというのだ。
「可哀想な人なのよ」
「そうなんだ」
「けれどヒロポンは使ったらああなるから」
二人の子供達にこうも話した。
「あんた達は絶対にね」
「使ったら駄目なんだ」
「ヒロポンは」
「そうしてね。若し使ったら」
その時はというと。
「あの人みたいになるわよ」
「う、うん。僕使わないよ」
「僕もだよ」
二人はすぐに答えた。
「だって怖いから」
「お化けより怖いから」
そう感じたからだというのだ。
「あのおじさん見ていたら」
「おしっこ漏らしそうになったし」
「そうだよね」
「そうでしょ。そう思うもうならよ」
幾多郎の母は二人に強い顔で告げた。
「絶対に使わないことよ」
「そうするね」
「大人になっても」
「一生ね。あの人だって戦争で立派に戦ってきて」
その中毒になっている男のことも話した。
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