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渦巻く滄海 紅き空 【下】
五十三 招かれざる客
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慎重な男である角都は、ナルの術に対抗すべく遠距離型へ姿を変えると、地を蹴った。


(陽動の影分身に付き合うほど暇じゃない。狙うは──オリジナルただ一人)

陽動であろう影分身を無視してオリジナルだと当たりをつけていたナル本人を狙う。
螺旋手裏剣を拳上に持つナル。彼女に向かって、遠距離戦用に長く伸ばした【禁術・地怨虞】が襲い掛かった。


「やはりこちらの手を読まれていたか…!」
「ナル…!」

陽動で引きつけているうちに本命のナルが敵に術をくらわす。
その陽動作戦を角都に見抜かれていると悟り、カカシとヤマトがナルの身を案じる。
彼らの叫びを耳にしながら、角都は(もう遅い)と嘲笑った。


「フ…奇妙な術だが、術者を潰せば脅威にはなり得ない────残念だったな」

大波のように押し寄せる触手は髪のように見えて、その実、非常に鋭い。
故に。


ナルの身体は鋭く伸ばした触手で容易く貫かれた。








「貴様らの心臓は此処で全員、俺が貰い受ける」


身体を串刺しにされ、地面に縫い留められたナルを見下ろし、角都は残った忍び達に視線を奔らせる。
己の失った心臓の代わりにせんと、値踏みするかのように、カカシ・ヤマト・再不斬を順に見遣った角都は、己の頭上へ落ちてくる影にようやく気付いた。


「な…こ、コイツ…!」

空から降ってきた影に気づいて、顔を上げる。
見上げたその先に、ナル本人が螺旋手裏剣を手に、此方へ目掛けて来るのが見えて角都は眼を見開いた。

「コイツ…陽動の中にオリジナルを…!」


最初に陽動だと思い込んだ影分身。その内の一体こそがナル本人だったのだ。


現に今、串刺しにしたナルがぼふんっと白煙と化したのを視界の端に捉えながら、角都は回避の動きに転じる。
先ほどよりも上手く影分身を利用して接戦してくるナルに感心しつつも、彼女の行動を角都は逸早く気づくことが出来た。よってギリギリだが避けられる。

(ふ…運が悪かったな)

天は己に味方した。
もう少しナル本人の接近に気づくのが遅ければ、術を当てられたものを、と角都は冷笑する。



だが次の瞬間、己の心臓を誰かに抉られた感覚を覚え、角都は自身の胸元を手で押さえた。

「ぐは…ば、バカな…!?」



いきなり心臓が止まる。ストックしていた肩のお面が、パリンッと割れた。

急激な心臓の喪失。角都に隙が生まれる。
そしてその隙を逃すナルではない。

ぐらり、とふらつく角都の身体目掛け、螺旋手裏剣が炸裂する。
天は角都ではなく、ナルに味方したのだ。

急に角都の動きが鈍くなったことに気づいたカカシが、その原因に思い当って、口許に弧を描いた。


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