第二章
[8]前話
「親父思い出すな」
「その最低な」
「自分の娘だけれどな」
「けれどそっくりなのは顔だけでしょ」
ここで芳恵は夏樹にこう言った。
「そうでしょ」
「顔だけ?」
「他似てるところある?」
「いや、ないな」
娘の顔を見て言った。
「凄く女の子らしいな」
「そうでしょ」
「真面目でな」
「お義父さん真面目じゃなかったのね」
「だから酒に博打に女にでな、働いても家の金は使い込んで」
「茉祐お金はしっかりしてるわね」
「ああ、それで悪いこともな」
子供がするそうしたこともというのだ。
「しないな」
「いい娘でしょ」
「趣味は読書と剣道でな」
「剣道も真面目にやっててね」
「学校の勉強の方もな」
「そうでしょ」
「親父は何でも最底辺の高校でボクシング部で麻雀ばかりやってたそうだ」
夏樹は父の話をまたした。
「それでその時も喧嘩ばかりで万引きもカツアゲもシンナーもな」
「何でもやってたの」
「ガキの頃から屑だった」
「じゃあ茉祐と正反対じゃない」
「性格は違うか」
「性別も違うし」
芳恵はさらに言った。
「もっと言えば魂もでしょ」
「そうだな、同じなのは顔だけだな」
「そうでしょ、だったらね」
「別に顔がそっくりでもか」
「いいでしょ」
「そうだな、気にすることないか」
「そう、全くね」
こう夫に言うのだった、そして夫も。
納得した、それでだった。
以後彼女の顔について言うことはなかった、子供達が三人共結婚してそれぞれの子供つまり自分の孫達は誰も何処か自分の父親の面影があるかかなり似ていた。だがもう彼はそんなことはどうでもよくなっていた。似ているのは顔だけだったから。
娘の顔が 完
2021・10・21
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