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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
恋篝 T
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なのかもしれない。黒洞洞たる東京湾も、どこか浮ついたような淡みを帯びていた。そんな大東京の夜景を眼下にして、既に下りた夜の帳に、海月が嫣然と腰を掛けている。そうして藍染の天穹に見えるはずの綺羅星は、みんな掻き消されてしまっているらしい。星が綺麗だね──なんて言えそうにもなくて、それが何だか、彼女との行く末を暗示しているような気がして、どこか物悲しい、同時に目も背けてしまいたくなるような、そんな心地がした。

だからかもしれない──意地でも星を見付けたくなったのは。別にそれが絢爛な一等星でなくとも、今に消え入りそうな六等星でも、なんとか手をあるたけ伸ばしきって、掌に収めて、その存在をどうしても肯定したいのだ。届かないからこそ綺麗だとか、そんな陳腐な言い訳はしたくなかった。──彼女の瞳を彩る赤紫色が綺麗なのは、あぁ、これはいったい、どちらなのだろう。
「……あっ」思わず洩らしたその一言に、アリアがふいと伏せがちにしていた顔を上げる。「ねぇ。あそこ、見て」自分はそれだけ告げて、影が反照している窓硝子の向こうを指さした。


「──ほら、端白星(はじろぼし)。綺麗だね」


煌煌たる電飾灯にも、或いは皓皓(こうこう)とした海月にも、その端白星は掻き消されてはいなかった。漆黒に限りなく近い濃藍に、ただ悠然と明滅しながら──同時に、ただそこにだけ、確かに存在している。アリアはしばらく、凝然と据えた赤紫色の瞳でもって、その端白星を見詰めていた。いつもらしく眦の上がった鋭敏な目付きで、涼し気な目元をして──そんな端麗な様が、やはり似合っている。それから、やがて長い瞬きをひとつしたかと思うと、おもむろに口を開いた。


「……そうね。月も」


確証は無いけれど、そう聞こえた気がする。窓硝子の向こうで爆ぜた散華の余韻を耳に入れながら、自分は濃藍に描かれた菊文様を呆然と網膜に映していた。自分にとって、あの端白星が綺麗なら、彼女の言った、あそこに浮かぶ海月も、やはり綺麗だろう。けれど、いちばん綺麗なのは──その全てを映した、自分が焦がれている片恋の相手の、あの赤紫色の瞳だと、そう思った。
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