暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
G編
第101話:蛇の脱皮
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 安堵するクリスだったが、隣の透が沈んだ様子なのを見て溜め息を吐いた。敵であろうと慈しむ、この透の優しさは間違いなく彼の美徳だが今回ばかりは否を突き付けた。

「……透が気に病む必要なんてこれっぽっちもねえぞ」
「?」
「あいつは透を殺そうとしたんだ。それも楽しんで、だぞ? きっとこれまでにも、酷い事をやって来たに決まってる。だからこれは罰だ。今まで散々やりたい放題してきた、そのツケが回って来たんだよ」

 クリスの言いたい事は透にも分かる。メデューサはあの性格だ、きっと無意味な殺しも沢山やって来たに違いない。しかも下っ端メイジと違い、自分の意志でである。恐らく10人中10人が、メデューサの事を明確な悪と断ずるだろう。この結末に対しても、当然の結果だと彼女を憐れむ者はいない。

 しかしだからこそ透は、例え間違っているとしてもメデューサを助ける事が出来なかった事を悔いたいと思った。
 間違った事をしたから、悪い事をしたからと言って世界中の人間から嫌われ憐れんでもらえないなどこれ以上に悲しい事はない。

 何より、世界が怒りで染まるなどあってはならない事だ。そんな悲しい世界、誰も望まない。そんな世界になる位なら、例え割を食う事になろうとも自分はどんな相手でも許す。相手が自分を殺そうとした相手であろうとも、だ。そんな人が、世界に1人くらいいても良いではないか。

 それは今は亡き透の母が抱いていた信念でもある。透が幼い頃に死去した母を、透自身は殆ど覚えていない。だがその信念と優しさは、確かに透の中で生きていた。

――ったく、本当にどこまで優しいんだよ――

 そんな透だからこそ、自分は彼を愛したのだろうとクリスは内心で苦笑した。何処までも優しく、その優しさを誰にでも分け与える。誰をも慈しみ、誰かの痛みを肩代わりする強さを持つ彼だから、クリスも彼に対しては心を開き心から愛する事が出来るのだ。

 ならば、そんな彼の心を守るのは自分の役目とクリスは敢えて透に厳しい言葉を浴びせた。

「透は優しすぎるんだよ。それを悪いとは言わないけど、それを向ける相手はもう少し選ぶべきだとあたしは思う。透には難しい話かもしれないけど、その優しさが原因で透自身が傷付いたりしたら元も子もねえだろ」

 透の優しさが万人に通用する訳ではない。それは透自身が理解している。それでも”そうあれ”と彼自身の心が叫ぶのだ。何とかしようと思ってもどうしようもない。

 だからこそ、クリスの時折見せる厳しさがありがたかった。ドライと言い換えてもいい。透の事を第一に考え、彼の事を守ろうとしてくれるその姿勢が彼を守ることに繋がるのだから。

 不器用なクリスの優しさを理解し、透は優しく彼女の頭を撫でた。

「ん……分かればいいんだよ」

 
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