暁 〜小説投稿サイト〜
探偵オペラ ミルキィホームズ 〜プリズム・メイズ〜
探偵事務所にて
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「ら、らららら、ら、ら」

 その日、譲崎(ゆずりざき)ネロは上機嫌で迷都ストックホルムの街路を歩いていた。
 人々の靴底と冬季の積雪によって磨き上げられた石畳は、五月ーー北国にようやく訪れた春ーーの陽気に照らされて、黒く美しく輝いている。

 ネロは尚も上機嫌で棒付き飴を舐めつつ歩き続け、角を曲がったところでポテチ(携帯小袋)の封を開け、めんたい味の中身を三枚ほど摘みつつーー。

 渡された住所を見上げた。

 鉄の階段を登った上では、ちょうど、毛皮のマフラーをしたふくよかなーー偏見を承知で言えば、オペラ歌手みたいな、というべきだろうかーー女性が、足音も荒々しくドアを開けて、出てくるところだった。白黒の豹柄のコートが、ネロの視界に入る。

「もういいわ! こんな安い探偵に頼んだのが運のツキね! ウチのダンナを見つけて連れ帰るなんて、それくらいの仕事ができないんじゃあ、こんなところ、廃業したほうがいいわね!」

 ーー続いて、律儀にも部屋の主が出てきて、軽く頭を下げた。

「・・・すみません。なにぶん、事情が事情ですから・・・。」
「ふんっ!」

 ミンクコートの女性は、背の高いその人物の革靴の足(ネロの位置からは見えなかったが・・・)を思い切り踏みつけ、鉄製の安っぽい階段を、ずんずん、とーー 一歩ごとにその重量を誇示しながらーー降りて、登ろうとしていたネロの鼻先を通り過ぎた。
 数種の香水を混ぜたようなきつい香りが、ネロの鼻をくすぐる。

 そして、彼女は街路までの残りの三段を、ーー転げ落ちた。
 ネロが足を掛けたのだ。
 女性は気づかなかったが、階段の上にいた男性ーーおそらくーーは気が付いたのだろう。慌てて駆け下りてきて、ミンクコートの腕を取った。

「お怪我ありませんか!? すみません。この階段、本当に狭くて・・・」

 ミンクコートは男性の手を払うと、鼻息も荒く、告げた。

「全くだわ! 二度と来ないわ、こんな探偵事務所! さっさと潰れちゃいなさいっ」
「・・・。」

 棒アメをくわえたままのネロが半眼で見ている前を、ずかずかと歩き去り、−−明るい往来へと、出て行く。


 ふう、とも、はあ、ともつかない溜息を、青年はついた。
 ネロのほうを悲しそうに振り返る。

「・・・ダメだよ、君。あんなことしちゃ・・・」
「なんで」
「えっ?」

「あのオバさんは、僕の目から見ても明らかに態度悪かったよ。当然でしょ、あのくらい」
「・・・・」

 きょとん、と青年は目をまたたく。
 薄暗い路地の光でも分かる、すみれ色の髪と瞳。−−女と見まがう顔立ち。

「・・・、はははっ!」

 青年が笑うのと同時、階段の手すりを伝って、一匹の黒猫が軽やかに走り降りてきて、青年
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