第六章
[8]前話
黒部は薬を貰って退院した、服はビーチで脱ぐ前に着ていたものが持って来られていたので彼女も吉永もそれを着て病院に出た。
だがここでだ、彼女は一緒に病院を出た吉永に言った。
「私の負けよ」
「おい、勝負は途中で」
「助けてくれたでしょ」
吉永に真面目な顔で話した。
「それならよ」
「俺の勝ちなんだ」
「そう、もう完全にね」
それこそというのだ。
「私の負けよ、だからね」
「俺と付き合うんだ」
「そうするわ、約束だから」
吉永が勝ったら交際すると、というのだ。
「だからよ」
「それでなんだ」
「じゃあね」
「これからか」
「宜しくね」
「そうだ、お前の勝ちだ」
病院まで連れて来てくれた先生もこう言った。
「よかったな」
「いや、勝負は流れたと」
「そんな筈あるか、誰がどう見てもお前の勝ちだ」
黒部を助けた吉永のというのだ。
「見事だったぞ、じゃあこれからはな」
「こいつとですね」
「付き合っていけ、健全にな」
最後の言葉は先生としてのものだった、こうしてだった。
二人は交際することになった、吉永は見事望みを適えた。そうしてだった。
クラスで井口とこのことを話した、すると井口は彼に明るい笑顔で話した。
「お前は漢を見せたからな」
「皆俺が勝ったってか」
「認めたんだよ」
「そうなんだな」
「そうだ、だからな」
それでというのだ。
「黒部もお前に惚れてるだろ」
「勝負する前が嘘みたいにな」
「そうなったのはな」
「俺があいつを助けたからか」
「そうだ、俺もよくやったと思ってるぜ」
井口は口元を綻ばせて述べた。
「お前はな」
「そうなんだな」
「ああ、もう水泳の練習はしていないよな」
「それはな」
実際にとだ、彼は言った。
「勝負が終わったからな」
「だからだな」
「正直大変だったな、けれどよかったよ」
「いい勝負だったしな」
「あそこまで泳げていなかったあいつを助けられなかったしな」
クラゲに刺されてそのショックで咄嗟に泳げなくなり溺れかけた黒部をだ。
「よかったよ、それで今あいつと付き合ってバスケをしながらな」
「どうしたんだ?」
「また潮騒読んでるんだよ」
三島由紀夫のこの作品をというのだ。
「何か今は前読んだ時より面白いな」
「その作品みたいになったからか?」
「そうかもな、だから今からな」
「また潮騒読むんだな」
「そうするな」
井口に笑顔で言ってだった。
吉永は自分の席で潮騒を読んだ、海が見える教室で読むその作品は確かに前に読んだ時より面白かった。まるで自分の話の様に思えて。
潮騒の中で 完
2021・2・15
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