第四章
[8]前話
「戦に敗れては千万の金銀も意味がありませぬ」
「それはな」
「家が滅んではな」
「確かにな」
「勝ったなら大御所様に上様お二方のお腰のものまで手に入ります」
そうなることも話した。
「金銀や宝のことなぞ何故隠しましょう、知っておればもうお話します」
「そうするか」
「右大臣家が滅んだ今」
「そうするというのか」
「左様、ですが知らぬことは舌を抜かれても申しようもありませぬ」
それはどうしようもないというのだ。
「それを責めて問うとは何と申されますか」
「そうであるな」
「それは我等の誤りであった」
「申し訳ないことをした」
「責め問いはせぬ」
「このことも問わぬ」
米村の強い言葉と恐れを知らぬ気迫に幕府の者達も恐れ入った、そして。
その話を聞いた徳川家康はこう言った。
「見事な忠と勇の者、天下の宝じゃ」
「敵であっても」
「それでもですな」
「うむ、何処かの家に仕えさせよ」
米村に感じ入って述べた。
「よいな」
「わかり申した」
「それではです」
「修理の娘もですな」
「罪に問わぬ、あの者の弟の一人も幕府におるしな」
そして仕えているからだというのだ。
「よい、また修理の弟主馬は右大臣の子を密かに木下家に入れたそうであるが」
「はい、どうやら」
「その様ですな」
「そして木下家も匿っていますな」
「右大臣の子は都で首を切った」
そうしたとだ、家康は述べた。
「ではよい」
「そうされますか」
「どうも木下家は家の子とする様ですが」
「そのこともですか」
「戦は終わり右大臣家も滅んだ」
公にはそうなったからだというのだ。
「もうよい、血が流れることはこれで終わりじゃ」
「わかり申した」
「では米村も修理の娘もそうしましょう」
「そして木下家」
「その様にな」
家康はこう言って米村を赦した、そして彼は後に浅野家に仕える様になったが。
「服や飲み食いは簡素であり」
「武具は実に立派だ」
「修理殿の娘御を懇情を尽くして育てておられる」
「そのことにも心を砕いておられる」
「何と立派なことか」
「草履取りであっても」
その出であろうともというのだ。
「真の武士よ」
「ああした御仁こそ侍である」
「中々ああはなれぬ」
「まさに天下の宝よ」
多くの者が米村を見て褒め称えた、大坂の草履取りであった彼は真の武士として知られる様になった。大坂の陣の後の逸話の一つである。
大坂の草履取り 完
2021・5・9
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