第三章
[8]前話
「出来なかった、あれが大久保卿だな」
「ですね、威厳が違います」
「威圧感と言うべきでしょうか」
「そこに確かなものがあって」
「それで、ですね」
「中々言えないですね」
「ビシリと頭に来た、一睨みでだ」
それと共に出された言葉でというのだ。
「私は黙って帰るしかなかった」
「そう、その一睨みです」
「そしてそのお言葉の重みです」
「お身体から出る強さもあり」
「我々ではとても」
「あんな怖い思いをしたことははじめてだ」
速水はこうも言った。
「まさにな」
「左様ですか」
「たった一言で」
「それで、ですか」
「西郷卿は大器だ」
速水はここで西郷のことも話した。
「まさに国家の柱、これ以上はない重みをお持ちだ」
「そしてその西郷卿を幼い頃より支えてきた」
「そうして今も共に国を担っておられる」
「その大久保卿もですね」
「西郷卿と同じだけですね」
「素晴らしい方だ」
その威厳がというのだ。以後速水はこの士族授産について何も言わなかった。そしてこの政策もまた日本にとってよいものになったがこれは後の話である。
その話を聞いた山本はまた言った。
「そう、一蔵さあはそうした人だ」
「怖い人ですね」
「実に」
「そう言うしかないですね」
「厳しくてな、だが素晴らしい方だ」
恐ろしく厳しくともというのだ。
「常に冷静に状況を見ておられて断を下される」
「そうして西郷さんを助けてこられました」
「常に」
「維新までそうされてきました」
「吉之助さあは大器、あんな優しい方もおられない」
今度は西郷の話をした。
「だが吉之助さあは大将、軍師じゃない」
「大久保さんが軍師ですね」
「それで二人でやってこられた」
「だから吉之助さあも必要な人だ、お二人がおられんと維新はなかったし今の日本もない」
山本はここまで言った。
「だからおいは一蔵さあも嫌いじゃない」
「幾ら厳しくても」
「お仕事を持って行ってかえって仕事が増えても」
「それでもですね」
「そうだ、国に必要な人だ」
山本は周りに言った、そしてだった。
以後も二人にそれぞれ仕事を持って行った、西郷の笑顔と大久保の厳格は常に受けた。だがそれでも彼はそれをよしとした。
大久保利通は今も何かと言われている、しかしそこに私はなく威厳は強く正しいものであったということはわかっている、その彼の逸話としてこの話が残っている。後に速水が日本の産業の発展に貢献したことも思うと大久保の存在の大きさがわかる。そうした話ではなかろうか。
大久保の仕切り 完
2021・3・12
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