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まだ充分じゃない
第一章

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              まだ充分じゃない
 今日は休日だ、朝早くから彼と街に出てデートを楽しんでいる。
 一緒に公園を歩いて映画も観て買いものもして美味しいものを食べた、そしてカラオケボックスで歌って夜もだった。
 バーで二人で飲んでいる、彼は朝早くからのことを思い出しながら私に笑顔で言ってきた。
「いや、何かと今日はね」
「色々あったわね」
「うん、本当に色々とあって」
 それでとだ、ジントニックを飲みながら言ってきた。
「楽しかったよ」
「そうね」
 私は自分が注文したモヒートを飲みつつ彼に応えた、安くて美味しいお店なのでそれで何杯も飲んでいて今で五杯目だ。
「私も。ただ何かね」
「何かっていうと?」
「いえ、まだ物足りないっていうか」 
 飲みながら今の気持ちを言った、お酒が本音を出させていた。
「充分じゃないのよ。お酒のことじゃなくて」
「他のことでなんだ」
「デート自体のことでね」
 それでだ、飲みながら思ったことをそのまま彼に話した。静かで適度に暗く大人の雰囲気に満ちているお店の中で言った。
「それでなのよ」
「思うんだ」
「ええ、何かね」
 どうにもだ。
「まだ足りないのよ」
「そうなんだ」
「バーで飲んで終わりじゃなくて」
 まだ時間はあるしだ。
「他の何処かにね」
「行きたいんだ」
「そうかしら。夜の公園じゃなくて」
 誰がいるかわからないし虫も多い、正直夜の公園は好きじゃない。
「もっと他のね」
「場所に行きたいんだ」
「何処かしら」
 モヒートをお代わりしながら考えた、このお店のモヒートは美味しくて何杯でも飲める。それでもう一杯となった。
「それがわからないの」
「それじゃあね」 
 彼はあっさりとしたジントニックを飲みながら私に言ってきた、飲みながら聞こえてくるジャズが心地よい。
「ここで少し考える?」
「飲みながら」
「そうする?」
「そうしような。じゃあもう一杯貰うよ」
 こう言って実際はもう三杯飲んでだった。
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