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童心
第二章

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「それだけだけれどね」
「いや、それでもね」
「芸術的に」
「芸術って何かな」
「いや、何かって言われたら」
「返事に困るけれど」
「描きたいものを描いているだけでいいんじゃないかな」
 雄太はこう言ってだった。
 自分の絵を描いていった、それは美大を卒業して絵を生業となっても変わらなかった。
 それで生活の糧を得られることは嬉しいと思ってたが彼の考えは変わらず。
 描き続けた、そして言うのだった。
「僕の考えはね」
「やっぱり描きたいものを描く」
「それだけなの」
「そう、それだけだよ」
 こう言って描くだけだった、そこには慢心も奢りもなくただ描きたいという欲求だけがあった。その話を聞いて。
 結婚して保育園の先生を辞めて今はパートをしながら子育てをしつつ主婦業に勤しんでいる英美里は夫の克之に話した、夫の外見は穏やかな顔立ちで長身で黒髪を短くしている。仕事は会社員である。
「あの人私が保育園で先生をしていた時に保育園に通っていたの」
「そうだったんだ」
「その頃から絵が何か光っていてね」
「注目されていたんだ」
「ええ、けれどあの頃からね」
 子供の頃からというのだ。
「ああしてね」
「何でも描ければいいって言ってなんだ」
「そうだったの」
 若い頃と比べて皺が目立つがまだ可愛さのある顔で話した。
「周りがあれこれ言っても」
「自分はだね」
「描きたいものを描く」
「それだけなんだね」
「ええ、子供の頃の心を」
 それをというのだ。
「忘れていないのね」
「そのままで描いているんだ」
「だからあそこまでなれたのかしら」
「そうかもね」
「慢心とか周りの言葉に惑わされないでね」
「邪心なく描いているから」
「あそこまでなれたのかもね、世界的な名声を得ても」
 それでもというのだ。
「絵を描いたいという気持ちだけで描いているから」
「あそこまでなったんだね」
「そうだと思うわ、純粋に何かをしていったら」
 それでというのだ。
「大きなものになれるのね」
「そうなんだね、子供の心のまま周りの言葉のまま続けていく」
「人間大人にもなって色々なものが入るわね」
「それで子供のままって難しいけれど」
「それが出来たらね」
「彼みたいになれるんだね」
「そうかも知れないわ」
 童心のままの彼について言うのだった、彼はそれからも描いていった。周りの言葉を気にせず描きたいものをそうしていった。


童心   完


                  2021・9・29
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