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貧しさがどうした
第四章

[8]前話
「問題は生き方だからね」
「お金がないことじゃなくて」
「そう、だからこれからは後ろめたさを感じないでね」
 こう言うのだった、そしてだった。
 実花はこの時から相手の家とも親しく付き合う様になった、そして式にも呼ばれ息子の幸せに涙した。この時も。
 彼女は絶賛された、誰も彼女の貧しさには何も思わず保志を育てた立派さを讃えた。そして彼が相手の家に入って暫くして。
 妻を連れて彼女の妊娠のことを話した保志に夫の実家からの連絡を話した。
「お父さん亡くなったそうよ」
「そうなんだ」
「ええ、この前ね」
「何で死んだのかな」
「肝硬変でね、実家に戻ってあちらで働いて再婚もしたけれど」
 それでもというのだ。
「相変わらずでね」
「浮気と暴力とギャンブルか」
「お家の羽振りはいいままだったけれど」
 それでもというのだ。
「再婚しても続かなくてお酒もね」
「あいついつも滅茶苦茶飲んでたしな」
「それでね」
 そのせいでというのだ。
「肝硬変になってまだ飲んで」
「そうしてか」
「亡くなったのよ」
「そうだったんだな」
「あんたの言う通りね、お金があっても」
「性格が駄目だとな」
「そういうことね、大事なのはね」
 自分の家、相変わらず質素なアパートに来た息子妻と共にいる彼に対してしみじみとした口調で話した。
「性格ね」
「そうだよ、俺母さんを見てな」
「お父さんも見てなのね」
「わかったんだよ、それで子供が出来たら」
「お母さんにしてみれば孫ね」
「可愛がってくれよ」
「そうさせてもらうわね」
 母は息子に笑顔で応えた、そして孫の男の子が生まれると実によく可愛がった。豪邸に住む彼だったが彼女の質素なアパートに行くことは大好きだった。そこにとても優しく自分を可愛がってくれる人がいるから。


貧しさがどうした   完


               2021・9・21
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