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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
情の変遷
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自分とアリアが帰宅したのは、ちょうど専門科目を履修する面々にとっての、5限目の半ばあたりの時刻だった。例年の5月にしては猛暑ともいえる今日の異常は、既にリビングのテレビから気象予報士が告げている。その天気予報を聞くともなく聴きながら、自分とアリアはソファーに深く腰掛けて、淹れたばかりのアイスティーが芳香する、滋味豊かな香りに落ち着いていた。

ベランダへと続く窓硝子は開放されていて、先に見える東京湾の潮風を部屋いっぱいに送り込んでいる。現代的な大都会に屹立するビル群を押しのけて、我先に我先にと立ち昇っていくのは、あまりにも時期尚早な入道雲だった。けれども今はまだ、紛い物の夏でしかない。真個の夏は、遥かに壮大で、婉美で、果敢ない一刹那の泡沫なのだ。そこに哀愁だとか懐郷という感情を当てはめて、かつての文学人は、そうした一刹那を幻想耽美に傾倒させて、描写してきたのだ。

そんなことを茫然と考えやりながら、隣に座っているアリアの名を呼ぶ。彼女はソファーの背もたれに身体を預けきっていて、その長い睫毛を、閉じた目蓋から、前髪の間に覗かせていた。緩慢として開いた目蓋の向こうには、彼女特有の赤紫色の瞳が爛々としている。しばらく虚ろな瞳で自分を見詰めていたアリアは、「……なに?」とだけ洩らすと、そのまま目蓋を瞬かせた。

容赦のない陽光に照らされながら帰宅したのは、つい数十分ほどの話になる。その余韻が未だに残っているのか、アリアの額のあたりには、髪の毛が汗のために張り付いていた。そこに蠱惑的な彼女の魅力を感受してしまうと同時に、少し目を背けたいような下心をも感受してしまう。しかし多分に横溢させているそれを、目前に座る少女アリアは、微塵も自覚していないらしい。それならば、それで──と、心持ちを平常に近付けながら、自分は要件を端的に告げてみせる。


「どうやら明日、ウォルトランドで花火大会があるらしいね。知ってた?」
「そういえば……たぶん、クラスの子が言ってたかも。それで、どうしたの?」


どうやらアリアは、こうした自分の話に興味を持ってくれたらしい。ソファーの背もたれに寝かせていた身体を起こすと、両の手を可愛らしく膝頭にあてがいながら、こちらを見上げてくる。そんな彼女の態度に、気圧されてしまった──とでも言おうか、今の今まで平然としていたはずの心持ちが、幾分か動揺してきたようで、結局は誘いの話を1つ伝えるだけでも、言い淀むような形になってしまった。少し失敗したなと胸臆で反省をしながら、それでも中身は伝えきる。


「うん。君さえ良ければ、だけど──一緒に行こうかなぁ、って」


彼女は自分の返事に、少々面食らっているように見えた。赤紫色の瞳を目蓋の向こうに見え隠れさせながら、落ち着きのなさそうにして、指先で髪の毛を遊ばせている。視線は
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