第三章
[8]前話
「まさか」
「春になるなんてか」
「ずっと冬って思っていたら」
「冬も終わるんだ」
寒く港に船が来ない季節もというのだ。
「絶対にな」
「それで春になって」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「こうしてな」
「色々なお花が咲いて」
「桃も梅も桜もな」
「そうして港にはな」
「船がやって来るんだね」
「そうだ、お前が見ている通りにな」
今そうしている様にというのだ。
「そうなるんだ」
「そうなんだ」
「だからな」
太兵衛はさらに話した。
「冬は厳しくても春が来るんだ」
「絶対にだね」
「冬は我慢しろ、しかし春になったらな」
その時はというと。
「嬉しいだろ」
「うん、凄くね」
「喜べ、そして喜んでな」
そのうえでというのだ。
「店をやるぞ、船が来たからな」
「お店もだね」
「賑やかになるぞ、船からどんどんものが来てな」
日本中からそうなってというのだ。
「凄いからな、どれだけ凄いかも見るんだ」
「おいらはそうするんだね」
「ああ、待ちに待った春だ」
忙しいそれもとだ、太兵衛は笑顔で話した。
「やるぞ、お父もお母も見ろよ」
「そうするね」
「春がどんなものかな」
その春の港を観て息子に言った、港にはもう雪はなく。
様々な花の花びら達が風に舞いその中を多くの船が停まって入ろうとしていた。そして人々がその船を出入りして。
多くのものを港に出して船に入れていた、太兵衛はそれを見て春を実感していた。この時から十五年後。
大人になり店の仕事をしていた吉兵衛は湊に船が戻ったのを見て言った。
「また春になったな」
「ああ、そうだな」
父が息子に応えた。
「やっとな」
「やっぱり春はいいな」
「そうだな、暖かくなって花も咲いて」
「港に活気が戻るしな、待った介があった」
その春の間というのだ。
「本当にな、それじゃあな」
「また思いきり働くぞ」
戻ってきた船達相手のそれをというのだ。
「いいな」
「ああ、おいらも頑張るぞ」
吉兵衛はすっかり男前になっていた。そのきりっとした顔でだった。
威勢よく行って港に向かった。そこは彼がよく知っている春の港であった。冬の間待ちに待っていた。
春の港 完
2021・3・10
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ