第二章
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「いいな」
「そうしたらいいんだ」
「そうだ、今は仕方ない」
冬はというのだ。
「我慢だ、しかし我慢したらな」
「それでなんだ」
「春になったらこれ以上はないまでに嬉しいことになるからな」
そうした状況になるからだというのだ。
「いいな」
「今はなんだ」
「我慢だ」
それしかないとだ、父は息子に話した。そしてだった。
吉兵衛も自分のお父が言うのならと頷いた、そして冬の間は敦賀の街の者達が客として来るのに子供ながら受け答えをして。
店の仕事を見て寺子屋で商売に必要な読み書き算盤を習ってだった。
雪に覆われた街の中で友達と遊んだ、だが冬は長く。
吉兵衛はとても雪がなくなるのか春が来るのかと思った。それで店の仕事も晩飯も終わった夜に父に炬燵の中で尋ねた。
「お父、本当に春が来るのかな」
「ああ、来る」
絶対にとだ、太兵衛は答えた。
「何があってもな」
「雪が全然なくならないけれど」
「それでも春になったらなくなるんだ」
父の返事は強いものだった。
「いつもそうだからな」
「それで今の雪もなんだ」
「なくなる、なくなってな」
そうしてというのだ。
「春になってな」
「港に船も来るんだ」
「またな、それにな」
太兵衛は息子にさらに言った、炬燵の中で酒を飲んでいるが炬燵とそれでは足りずどてらまで来ている。
「それだけじゃないぞ」
「桜や梅の花もだね」
「桃の花もだ」
そうした木の花達もというのだ。
「咲くからな」
「だからなんだ」
「待っていろ、我慢しろと言ったな」
「うん、お父前に言ったね」
「お父の言葉を信じろ、お母も春が来ると言ってるだろ」
「聞いたらね」
「だからだ」
それでというのだ。
「我慢しろ、我慢したらな」
「春が来て」
「本当にいいからな」
春が来ればというのだ。
「だからな」
「今はだね」
「寒かったら布団の中に入って寝ろ」
息子に酒を飲みつつこうも言った。
「いいな」
「それじゃあおいらもう寝るね」
「そうしろ、お父ももう少ししたら寝るからな」
今は酒を飲みつつ言った、彼はこの時早く春になれと内心思っていた。それはあまりにも寒いからだった。
こうしたことも話しながら日々を過ごしてだった。
冬の日々は続き徐々に暖かくなってきて。
雪も減ってきてその雪がなくなるとだった。
野原に憑くしや蒲公英が出て来た、それと共に」
梅や桃、そして桜の花々が咲きその花達の色で敦賀が化粧された。雪の白からその色に化粧されて。
そのうえでだ、港には。
冬の間には一艘もなかった船達が来ていた、吉兵衛はその船達を観て目を丸くして父に顔を向けて言った。
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