プロローグ
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(年)のセツナ。
だが今のセツナには此所に連れてこられるまでの美しさが無かった。
あの艶やかで見るものを魅了していた長い膝裏まであった黒髪は、白と灰の中間色になり、薄い赤色の瞳は淀み虚ろう血より紅い瞳に変わっている。
あんな雪を思わせるきめ細かい白い肌は薬の副作用や実験の反動、精神変動、実験が始まってからの不眠不休により肌は血の通っていないかのような蒼白い死人肌に変色している。
身体は筋肉が衰え、まるで骨と皮に近いスカスカ。皮膚上から血管が視認出来る程である。
だがなにより目を引くのはその左目である。
本来モノを視覚する眼球が存在しないのである。
その眼球の代わりなのか血を固まらせたかのように妖しく禍々しく輝く紅い宝石が眼球の代わりに埋め込まれている。
しかもその左目の回りは血管と思わしき管が大量に浮かんでおり、時折宝石に血を送っているかのようにドクンドクンと脈動している。
この宝石………エクスフィアはエクスフィアでありそうでは無かった。
《クルシスの輝石》そう呼ばれるエクスフィアの進化型。天使を束ねる天の神《天神・ユグドラシル》の力に及ぶ可能性を秘めた最高級のエクスフィアである。
このクルシスの輝石を要の紋と一緒に埋め込まれたからかあれからセツナの身体に異変が起こっていた。
五感の幾つかの損失である。まず無理矢理流し込まれる食べ物の味が感じられなかった。次に匂いが分からなくなった。
それに続いて眠気が無くなり、痛覚と触覚が鈍くなった。
つまりそれは生命としての欠落である。
もはや人として、生命としての尊厳も、未来も、現実すら残っていない。
今のセツナの心を占める願望は一つ。家族や家臣達の安否である。
前世の記憶があるからか誰よりも皆に生きて欲しい。自分は第二の人生を歩めたのだから自分の分まで生きて欲しい。
そんな願いすら叶わないのだから。
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