第一章
[2]次話
春の港
この時敦賀の港は雪に覆われていた、それでこの街で商いをしている済州屋の子供吉兵衛は困った顔で言った。
「ずっと雪だね」
「ああ、これじゃあな」
父の太兵衛も応えた、あどけない顔の息子に対して父は逞しくしっかりした顔である。下半身もどっしりとしている。
「この冬もな」
「船はだね」
「来ない、いや」
太兵衛はこうも言った。
「来られないな」
「雪だから」
「いつもこうだ、冬はな」
父はまだ幼い息子に話した。
「ずっと雪が積もってな」
「港使えないんだ」
「ああ、春まではな」
「春になったらなんだ」
「雪がなくなってな」
今港を覆っているそれがというのだ。
「そしてな」
「また船が来るんだ」
「坊主はまだ冬は知らないか」
物心ついたまでの息子にそれも仕方ないと思いつつ微笑んで言った。
「なら覚えとけ、ここはな」
「冬はこうなるんだ」
「そうだ、雪ばかりでな」
その雪に覆われてというのだ。
「そうしてだ」
「船も来ないんだ」
「秋までは来ていてもな」
それでもというのだ。
「春までは辛抱だ」
「おいら前は湊に船一杯見たよ」
その敦賀の港にというのだ。
「そうしたよ」
「ああ、それでもな」
「冬はなんだ」
「雪のせいでな、だから春まで辛抱だ」
「そうなんだ」
「店もな、船の商いはなしでな」
船が来ないではどうしようもなくというのだ。
「街の中でやってくぞ」
「お店に人が来てるから」
「ああ、その人達とだけな」
つまり敦賀の者達と、というのだ。122
「やっていくんだ」
「おいらがお店を継いでもなんだ」
「そうだ、それは変わらない」
その時もとだ、太兵衛は吉兵衛に話した。
「だからそうしていくぞ、また春になれば大坂や博多からも船が来る、他のところからもな」
「そうなるんだ」
「春になったらな、だからな」
「本当に春までだね」
「辛抱だ」
そうするしかないというのだ。
「いいな」
「それしかないんだ」
「どうしようもない」
これがが父の返事だった。
「冬はな、しかし春が来るとな」
「春になったら」
「雪がなくなるんだ」
湊を覆っている雪がというのだ。
「そして船もだ」
「また来るんだ」
「桜や梅や桃も咲く」
そうした春の花達もというのだ。
「全く違う、春になったらもう何もかもが変わる」
「だからなんだ」
「今は我慢だ」
そうしろというのだ。
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